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第32回三島由紀夫賞と山本周五郎賞を振り返る 町田康さん、石田衣良さんが講評

(左)山本周五郎賞の朝倉かすみさん (右)三島由紀夫賞の三国美千子さん

三島賞 立体的な小説世界 巧み

 三島賞は選考委員の町田康さんが講評し「最初の投票でだいたい決まった」と述べた。「いかれころ」は4歳の「私」の語りに大人になった現在の視点が交ざる。「二つの立場から一つの現実を巧みにとらえ、小説世界が立体的になっている。河内弁が意識的に使われている点も面白い」。新人賞を受けたデビュー作だが「腹が据わった文章。楽をしようとしていない」と太鼓判を押した。
 次点以下は評価がばらけた。倉数茂さん『名もなき王国』には「幻想小説として面白いところがあった」、岸政彦さん「図書室」は「前作より進歩した」、金子薫さん『壺中(こちゅう)に天あり獣あり』は「言葉だけで世界を立ち上がらせようとした作者の意欲は評価できる」、宮下遼さん「青痣(あおあざ)」には「過剰な装飾が好きだ」という意見があったという。

山本賞 年収計550万円 切ない恋

 山本賞も「満票に0・5点足りないだけ」という高評価だった。選考委員を代表して石田衣良さんが経過を語った。受賞作について「僕も恋愛小説を書きますが主人公の男性を(軽自動車の)タントに乗せようとは思わない。男女の年収あわせて550万円で恋をする。切ないですね。貧しいながらも互いを思い合う雰囲気がよく出ている」。
 次点は赤松利市さんの『鯖(さば)』。「山本周五郎賞に新人賞があったら全員が『鯖』を押していたと思う」。木皿泉『カゲロボ』は「読み味はいいが無理に連作につなげている」、澤田瞳子さん『落花』は「心の弾みやキャラクターの魅力が少し足りない」、芦沢央さんの『火のないところに煙は』は「新しさを感じるがやや作為が多い」。
 両賞の選考委員は任期制で次回は山本賞の荻原浩さんを除き交代する。山本賞の石田さんは「最後に一言」と断り、小野不由美さんの『残穢(ざんえ)』と小川哲さん『ゲームの王国』を挙げて、「直木賞は受賞しないだろうホラーとSFに賞を差し上げられたこと、何回か候補に挙がり懸案になっていた湊かなえさんに差し上げられたことが良かった。実りのある選考だったなと自画自賛しています」。「保守本流の直木賞とは全く違う、とがっていて一番面白い文学賞であってほしい」と付け加えた。(中村真理子)=朝日新聞2019年5月22日掲載