1. HOME
  2. 書評
  3. 「古琉球」書評 中継貿易で栄えた「万国の津梁(しんりょう)」

「古琉球」書評 中継貿易で栄えた「万国の津梁(しんりょう)」

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月25日
古琉球 海洋アジアの輝ける王国 (角川選書) 著者:村井章介 出版社:KADOKAWA ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784047035799
発売⽇: 2019/03/28
サイズ: 19cm/413p

古琉球 海洋アジアの輝ける王国 [著]村井章介

 琉球とは何か。日本は薩摩南方海上の島々を、中国は福建東方海上の島々を台湾をも含めて「リュウキュウ」と呼んでいた。明の登場によって、大琉球=沖縄、小琉球=台湾、という呼称が成立する。なぜ沖縄の方が大琉球なのか。それは明の入貢要求に応えたからだ。当時の台湾には外交主体となりうる政治勢力が存在しなかったのである。
 当時の沖縄には三山と呼ばれた三つの小王国が分立していたが、中山王が先頭をきって入貢。1420年代には尚巴志(しょうはし)が統一中山王国を樹立する。明は鎖国していたので(海禁政策)、琉球を海外産品入手の窓口として、いわば明直轄の貿易公社のように位置づけて手厚い助成を行った。明は華人の琉球渡航を奨励し、渡来華人が外交を担ったのである。また、琉球の国家組織は聖俗の二本立てで、国王―官人のラインと、最高神女「聞得大君(きこえおおぎみ)」―神女、というラインが併存していた。琉球は東南アジアや朝鮮と手広く交易を行い獲得した産物を明に貢納して15世紀には「大交易時代」を現出し大いに繁栄した。「万国の津梁(しんりょう、橋渡し)」すなわち中継貿易がその核心であった。
 ところが15世紀後半になると、明は交易に消極的となり琉球への優遇を削減する。16世紀に入ると中国人、ポルトガル人、倭人(わじん)などによる海民の共和国ともいうべき後期倭寇(わこう)が活動を活発化させる。手ごわい競争相手が現れたのである。さらに島津氏も関与を深め、1609年、島津氏による琉球征服が行われて古琉球の歴史は終わる。
 古琉球の時代、琉球は日本の国家領域の外にあった。琉球の歴史は日本の常識が通用しない多様性、複雑性にみちている。この地域史を語ることで著者は日本を逆に照射しようと考えたのではないか。専門書ではあるが、本書をひもとくことで様々な示唆を得ることができる。沖縄問題や交易の歴史に興味を持つ人に強く薦めたい良書である。
    ◇
 むらい・しょうすけ 1949年生まれ。立正大教授、東京大名誉教授。著書に『日本中世境界史論』など。