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小さな命への愛情、伝わる

「あまがえるのかくれんぼ」

 池のそばの草むらにくらすアマガエルのラッタ、チモ、アルノーは今日も3匹でかくれんぼ。自然の中でのびやかに遊んでいますが、そのうちラッタの体の色がおかしいことに気づいて……。水彩で細密に描かれた無表情なカエルが、笑ったり、困ったり、驚いたりと、まるで人間のように豊かな顔を見せてくれるのは見事。作者のカエル愛がひしひしと伝わります。柔らかいタッチの中にも、しっかりと自然のリアリズムが描かれていて、ファンタジーの世界に違和感なく入れます。カエルはもちろん植物や虫、鳥など、小さな生命に愛情と敬意を込めて丁寧につくられた絵本。物語を楽しめるのはもちろん、子どもたちもきっとカエルや自然が身近に感じられる1冊です。(丸善丸の内本店 児童書担当 兼森理恵さん)

「アブラ カダブラ カタクリコ」

 ウサギのハティーは魔法使い。「アブラ カダブラ カタクリコ」。ハティーが呪文を唱えると、帽子の中から次々といろんな動物が飛び出します。次は何が出てくるかな。帽子からチラッとのぞく耳やしっぽなど、小さなヒントがページをめくる楽しみをふくらませます。やっぱりと納得したり、意外な正体にびっくりしたり。最後は一番大きなあの動物の登場でしめくくり……かと思いきや、予想を超えた満足感に包まれます。2月にイギリスで出版された逆輸入絵本。国境も年齢も超えて楽しめます。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)

「嵐をしずめたネコの歌」

 イギリスのコーンウォール地方に伝わる伝説を基にした物語。大嵐が来て海が荒れ、漁師たちが船を出せず村に食べるものがなくなったとき、年老いた漁師のトム・バーコックは飼い猫のモーザーと一緒に、命がけで海に出て行く。村人たちのために、なんとしても魚をとろうと決意したのだ。細かくていねいに描かれた絵がとてもいい。もともとは横書きの文章量の多い絵本だが、そのままの形では日本の子どもに読みにくいので、文字を縦書きにして絵童話風に仕立てている。(翻訳家 さくまゆみこさん)朝日新聞2019年5月25日掲載