1. HOME
  2. インタビュー
  3. 著者に会いたい
  4. ネットの奇縁とエモい店 池田達也さん「しょぼい喫茶店の本」

ネットの奇縁とエモい店 池田達也さん「しょぼい喫茶店の本」

池田達也さん=横関一浩撮影

 高田馬場から郊外行きの電車で10分。昭和の香りが漂う商店街で、喫茶店を営んでいる。カウンター7席のみの店の名は、しょぼい喫茶店という。ネットの奇縁をたぐり寄せ開店した顛末(てんまつ)を本にした。

 開店は1年余り前で、直前は就活生。学校の成績は良かったが、その実、部活もアルバイトも留学も長続きしなかった。就活は虚飾の世界だが、諦め癖は粉飾できず。「オンリーワンの何者かであることを求められる圧力が苦しくて」また逃げた。

 いつ死のうかとネットをさまよううちに、元「日本一有名なニート」pha(ファ)の規格外の生き方を知り、心が楽になった。そして年収200万円でいろんな店を経営するという「えらいてんちょう」の起業のススメを読んで考えた。自営業ならできそうだ。生きていく金さえあれば十分――。若者言葉で言うエモい(感傷的な)話はここから加速する。

 バイトでためた開店資金が足りず「100万円ください」とツイッターでつぶやくと、会ったことも無いえらいてんちょうの目にとまり、投資家を紹介してもらう。出資金100万円をぽんともらい、開店した。ネットのやりとりを見た、うつ病療養中の女性が手伝いを買って出た。

 こんな経験は普遍化できないし、迷っている人にヒントもあげられない。それでも、社会に窮屈さを感じている人たちが各地から訪れ「こういう場があって、それを守ろうとしている人がいて救われた」と言う。「下の方にある希望を見て、勝手に救われている方が多いみたいです」

 売り上げは、1日1万円あればいい。店の拡大も考えていないから、今後のビジョンを聞かれると困ってしまう。一方、開店を手伝った女性と結婚し、まもなく子どもも生まれる。そこまでつづった本は、登場人物たちの実にエモい回復の物語でもある。(文・木村尚貴 写真・横関一浩)=朝日新聞2019年6月8日掲載