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小学生「作家」と大学生「編集者」による本格的な絵本が完成 奇想天外なストーリーが展開する読み聞かせ会

「作家」のせやま君(左)と「編集者」の大学生・束原さん(文・写真:土井大輔)

 「VIVIBOOKSえほんプロジェクト」と名付けられたこのワークショップは、子供が中心となってものづくりをするスペース「VIVISTOP柏の葉」を運営するVIVITA(ヴィヴィータ)株式会社が主催した。きっかけは、凸版印刷株式会社の中澤亜希さんとVIVITAのサービスプランナー・穴山信一さんが、雑談のなかで「本作りをプロジェクトとしてやりたい」と話したことだという。穴山さんは人づてに児童書の編集者・沖本敦子さんと知り合い、協力を得た。

 プロジェクトは2018年9月、小学生3〜6年生(当時)の子供たちと、武蔵野美術大学の学生やVIVITAのスタッフが参加して試験的にスタート。アイデアノートの作り方から、本の設計書である台割(だいわり)の作成、紙の選定まで、各工程で中澤さんや沖本さんらがアドバイスをした。

 「編集者は世の中の面白い作家さんを見つけて、その人のどういうところが面白いかを引き出し、かたちにする仕事です。一方、作家さんは、期待に応えてそれを凌駕するかたちで返したり、編集者が暴走したとき、『僕がやりたいのはこういう表現じゃない』と、ちゃんと言葉で伝えたりします」

 「だるまさん」シリーズ(かがくいひろし)、『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ)などの人気絵本を手がけてきた編集者の沖本さんは、プロジェクト当初、参加者にそれぞれの立場をそう説明したという。編集者を務める大学生たちには「大事なことは自分の企画に愛着を宿すこと」と語り、「自身もプレイヤーとして関わってほしい」とも伝えた。

 完成した絵本は、風に飛ばされた帽子を追いかけるなかで友達と出会う『チロちゃんとかぜ』、ムカデやゴキブリまで虫ならなんでも好きな男の子が描いた『大好きな昆虫図鑑30』、奇想天外な寿司ネタがならぶ寿司屋を舞台にした『へんなすしや』など、自由な発想から生まれた作品ばかり。それぞれ5〜10部程度の少部数印刷で、販売については未定だが、読み聞かせでは客席からたびたび笑い声があがった。

完成した絵本は帯がついた本格的な仕上がり
完成した絵本は帯がついた本格的な仕上がり

 食べられそうになったバナナが夢を語りだす『バナナは、なにに、なりたいの?』で「編集」を担当した大学2年生の束原じゅんさんに話を聞くと、「小学生の集中力が持続する時間を考え、前日までに入念に準備をしてから打ち合わせに臨みました。彼らは気がつくと立ちあがって、ひとり踊っていることもあったので」と笑いながらその苦労を語ってくれた。

 一方、同作の「作家」である小学校5年生・せやまえいた君は、「(束原さんは)いろんなことを話してくれたから、やりやすかった。もう1冊作ることになったら、また一緒にやりたい」と話した。

『チロちゃんとかぜ』初期のアイデア(提供:VIVITA)
『チロちゃんとかぜ』初期のアイデア(提供:VIVITA)

 会場には「作家」たちの親たちの姿もあり、『昆虫図鑑』を作った小学6年生・すみん君の母親は「文章まで本人が書いていたことは知りませんでした。友達ができればとプロジェクトに参加したのですが、自分の言葉で人に伝えられるようになったんだなと」と喜びの涙をにじませていた。また、5歳の子供を連れて絵本の朗読を聞いていた女性は、「正直、うちの子は途中で飽きるかなと思っていました。でも最後まで話に聞き入っていたのでびっくり」と教えてくれた。

児童書の編集者・沖本敦子さん
児童書の編集者・沖本敦子さん

 沖本さんは言う。「これは天才的な子供の作家を発掘して、ヒット作を生み出そうというプロジェクトではありません。子供たちが自分のクリエイティビィティ(創造性)に自信を持ち、かつ協働する楽しさや大変さを知ることで、自分の人生の扉を開く糧にしてほしいというのがテーマです」

 また穴山さんは今後の可能性について、「発表会は子供たちにとって、自分たちの作品を大人に評価してもらったり『いいね』と言ってもらえたりするいい機会になった。活動の体制が整えば、今年度も作品づくりを進めたい」と語り、発表会を締めくくった。