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岩井圭也さん「夏の陰」インタビュー 加害者・被害者の父持つ2人、竹刀で交わす対話 

岩井圭也さん=興野優平撮影

自ら打ち込んだ剣道題材

 野性時代フロンティア文学賞を昨年受賞してデビューした岩井圭也さん(32)が、受賞後第1作目となる新刊『夏の陰』(角川書店)を刊行した。自身が打ち込んだ剣道を題材にした社会派サスペンスだ。
 天才数学者と周囲の苦悩を描いたデビュー作『永遠についての証明』(角川書店)は、2年間受賞者なしだった同賞で、3年ぶりの受賞となった。選考委員からは「群を抜く筆致の美しさと勢い」と称賛された。
 デビュー後のプレッシャーには「不安がって、もったいつけてもしょうがない」。乗り越えて書いたのが、『夏の陰』だった。
 警察官を射殺して自殺した父を持つ倉内岳(くらうちがく)は、剣道道場に通いながらひっそりと生きる。殺された警察官の息子、辰野和馬(たつのかずま)はやり場のない憤りを抱えつつ亡父の後を追い、警察官として剣道の腕を磨く。夏の京都を舞台に、2人が竹刀を交えるまでの心情がきめ細かく描かれる。
 岩井さんは小学5年生から剣道を始め、十数年続けた。公式戦に出場したことはなく、いつも控え。やめた時期もあったが、「自分の軸が定まらない」と再び打ち込んだ。引いたり、あえて前に出たりする竹刀での駆け引きを「感情のやりとりに近い」と表現する。「加害者と被害者という緊迫した関係でも、剣道を通してなら対話が成り立つと思った」
 作品によってテーマをがらりと変える。いま関心があるのは医療問題だ。「ノンジャンルの賞でデビューできて幸せ。興味あることを自由に書いていきたい」(興野優平)=朝日新聞2019年6月12日掲載