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朱野帰子さんが幼少期に乱暴狼藉を働く姿に憧れた映画「グレムリン」 「もっとやっちゃえ」と思っていた

 子供の頃、「グレムリン」が好きだった。1984年に公開されたアメリカ映画で、ジャンルはSFブラックコメディだ。
 昔の作品なので、あらすじを説明しておくと、主人公の父親が息子へのクリスマスプレゼントを買うシーンから物語は始まる。そのプレゼントとは、チャイナタウンの骨董屋で売られていた不思議なペット・モグワイ。ふわふわしていて、歌も上手。とにかく可愛い。父親は買いたいと申し出るが、店主である老人は断る。

 こういう変な生き物が出てくる映画では、老人の忠告を聞いたほうがいい。見ているこっちは「絶対に買わないほうがいい」と思うのだが、どうやらその店は傾いているらしく、老人の孫が勝手にモグワイを売ってしまう。そして飼育するためには、「光に当ててはいけない」「濡らしてはいけない」「夜中に食べさせてはいけない」という三つのルールを守らなければならないと、主人公の父親に告げる。

 しかし、変な生き物が出てくる映画において、こういうルールは破られるのがお決まりである。さまざまなアクシデントから、モグワイは水に濡れて分裂し、個体数を増やす。さらに夜中にフライドチキンを食べて凶暴なグレムリンに変化してしまう。言わんこっちゃない、である。

 私は幼い頃、近所の公園で膨大な数のオタマジャクシを掬ってきて玄関で飼ったことがあった。しかしある朝、水槽を見ると、手足が生えたらしい彼らは忽然と姿を消していた。そんな感じで、グレムリンたちも主人公の家を飛び出し、クリスマス・イブの街へ繰り出して、乱暴狼藉を働くのである。
 これに立ち向かうのが主人公(実はすでに大人で銀行員で、ちょっとダサめ)と、その彼女である。二人のラブロマンスも進行するし、クリスマスにまつわる彼女の悲しい過去も語られる。しかし、私にとってはそんな人間ドラマはどうでもよかった。

 それよりも、やりたい放題やるグレムリンたちに魅了されていた。私の記憶では、彼らはバーに繰り出し、ビールを飲んで酔っ払う。ゲップをして笑い転げる。車を運転して事故を起こす。他人の家に侵入して、老人を車椅子に乗せたまま、悪戯で窓から放り出してしまう。それもすごく楽しそう。本当に悪い奴らなのだ。でも、私は「もっとやっちゃえ」と思っていた。観終わった後は、少しすっとした。

 私は手間がかからない子だった。幼稚園に通う頃には、祖母と二人で鎌倉まで出かけたりもしていたらしい。普通なら、幼稚園児と電車に乗るのは大変だが、私は静かにしていたらしい。良い子になることしか大人たちに愛される術を知らなかったのだ。やっちゃいけないことをやる。そんな子供らしい自由な心は小さな体の奥に抑えこんでいた。だから、グレムリンたちに憧れたのだ。
 最近の駅はマナー広告ばかりで、すべてを守る自信がない私は、少し怖くなる。グレムリンたちがゲラゲラ笑いながら現れて、好き放題暴れてくれたらいいのにな。そんなことを考えながら、電車に乗っている。