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熊川哲也さん「完璧という領域」インタビュー 踊りに生き様、完全燃焼

熊川哲也さん=家老芳美撮影

 「妥協やグレーって、時には便利な言葉だと思う。だけど、やり尽くしてできなかった人と、やらなくてできなかった人、どっちが格好いい?」。Kバレエカンパニーが20周年を迎えた今年、自伝を出版、インタビューでも舌鋒(ぜっぽう)鋭く語った。
 1989年にローザンヌ国際バレエコンクールで金賞。英ロイヤル・バレエ団では最高位のプリンシパルに昇格。本書ではロイヤルを退団後、99年にKバレエを設立してからのダンサー、芸術監督、経営者、教育者としての喜びや苦悩を描く。
 題は、2017年に初演されたオリジナル作品「クレオパトラ」について、「『完璧という領域』は厳然と存在する」と書いたことに由来する。完璧とは?と問うと「ダンサー、大道具、小道具、照明、観客の拍手が入るタイミングまで全部ってこと。『ライブは失敗がつきもの』という逃げ口上はやめたかった」。
 本の中の、ダンサーたちに言い続けた言葉「きれいに踊るな。汚い中から美を見せろ」も印象的だ。「ゴーギャンが描いた『タヒチの女』は、子どもを産み、生き様が積み重なった美しさ。形じゃないわけで」と説明。「形式美を追求するバレリーナは、いかに自分のラインがきれいかと鏡ばかりチェックする。だからダンサーたちに『汚い美でいいんだから』と言うんです」とも。
 今冬、「ベートーヴェン 第九」公演で2年ぶりに舞台で踊った。「白髪のまま登場し、舞台の上で完全燃焼した」と記す。「リハーサルで鏡に映る自分が若いダンサーたちと立っていると、『ああ、髪が真っ白だ、俺、おじさんだって』。負けそうになったけど、カーテンコールやロビーの温度、客席の期待感など、忘れかけていた景色をつかみにいかないとって思った」と話す。
 若手に闘う背中を見せての挑戦が続く。(文・山根由起子 写真・家老芳美)=朝日新聞2019年7月6日掲載