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鷲田清一さんが読み解く山崎正和さん  アンビバレンツな思考の源は 

鷲田清一さん(右)と山崎正和さん

 劇作家の山崎正和さんが文化勲章を受章した記念のフォーラムが6月8日、大阪大学で開かれた。山崎さんの「背中を追ってきた」という哲学者で阪大元総長の鷲田清一さんが登壇。事象そのものに迫る現象学者フッサールやメルロポンティの議論を参照しながら、山崎さんの著作に通底する思考を読み解いた。

 まず挙げたのがアンビバレンツ。相反する感情の共存を意味し、愛しているが憎い愛憎が典型だ。物事の裏側には必ず対極のものが貼り付き、自ら反転していく。そんな見方が劇作から文明論まで幅広い仕事に一貫するとみる。

 アンビバレンツを支える概念がリズムと受動性だ。リズムは山崎さんの『リズムの哲学ノート』に結実した長年のテーマ。精密に刻むほど人を酔わせる逆説をはらむ。同書は原生動物から人間の行動、宇宙の運動まで丁寧に論じ、自然科学にも耳を傾けて原理論に走らない。そこに本当の意味での受動性があり、現象学的な思考法だという。

 フッサールは物事を分析するナイフを対象の性質に合わせよと説いたが、彼自身はナイフの研磨に熱中し、世界に十分切り込まなかったと鷲田さんは考える。だが、山崎さんについては「日本では珍しい現象学的な実践をやってこられた」。鷲田さんの結論である。(編集委員・村山正司)=朝日新聞2019年7月10日掲載