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「官僚制と公文書」「公文書は誰のものか?」 組織から掘り下げる政府の不正 朝日新聞書評から

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年07月13日
官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景 (ちくま新書) 著者:新藤宗幸 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480072238
発売⽇: 2019/05/07
サイズ: 18cm/250p

公文書は誰のものか? 公文書管理について考えるための入門書 著者:榎澤 幸広 出版社:現代人文社 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784877987244
発売⽇: 2019/04/30
サイズ: 21cm/173p

官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景 [著]新藤宗幸/公文書は誰のものか? [編集代表]榎澤幸広、清末愛砂

 ここ数年、繰り返される政府の惨状に、人々はあきれ嘆き怒り続け、もはや疲れて脱力感を覚えているかもしれない。
 森友学園への国有地売却に関する財務省決裁文書の書き換え、加計学園開学認可に関わる「総理のご意向」メモの怪文書扱い、南スーダンPKO時の自衛隊日報の「廃棄」と発見、裁量労働制の労働時間データの不適切集計……。政府内でどう物事が決められていくのかの重要な証拠となる文書や統計に、改竄、隠蔽、捏造などの不正が行われていることが次々に明るみに出てきた。なぜこんなことになってしまったのか。脱力感を振り切り、もう一度目を見開いて事態を把握しなければならない。『官僚制と公文書』は、行政組織の側面からその背景を掘り下げている。
 M・ウェーバーが理念型として示した「官僚制」は、明確な法律や規則と指揮命令系統に基づく組織運営、公私の分離、そして文書主義を特徴としていた。新藤によれば、現実の日本の国家官僚は、そうした理念型から大きく逸脱している。日本の国家行政組織は、各職位の責任と権限が明確に定められていないという歴史的欠陥をもつ。そして、行政組織は運営のために膨大かつ多様な文書を作成している。市民が行政を監視するために重要であるはずのそれらの文書は、敗戦時の大量焼却を典型として、秘密とされたり恣意的に廃棄されたりしてきた。
 1976年のロッキード事件を契機として、99年には情報公開法、2009年に公文書管理法が成立した。これらは前進ではあったが、国民の「知る権利」を明記せず、「行政文書」の定義も曖昧であったことなどの限界をもっていた。さらに、2013年に成立した特定秘密保護法は、それらを骨抜きにした。加えて、第二次安倍政権以降の内閣官房および内閣府の膨張と機能強化、外部有識者会議の増設と内閣人事局による人事権掌握などにより、各省庁の自律性が破壊されて「政権主導」が濃厚になった。
 こうして国家行政組織には政権の歪みがそのまま流れ込むことになる。政権の歪みはむろん追及され続けなければならない。しかし新藤が指摘する、行政組織の構造的問題をどう打破してゆくかは、いっそう深く重い課題である。
 『公文書は誰のものか?』は、公文書管理をめぐる問題を、憲法に立脚しつつトピックごとにわかりやすく解説しており、高校生・大学生を含む初学者に役立つ。特に第3部は、社会保障、労働、教育、町おこしなど、身近な暮らしに引き付けて公文書を論じており、政府以外にも公文書にまつわる課題が広く存在することを気づかせてくれる。
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 しんどう・むねゆき 1946年生まれ。千葉大名誉教授(行政学)▽えのさわ・ゆきひろ 1973年生まれ。名古屋学院大准教授(憲法学)▽きよすえ・あいさ 1972年生まれ。室蘭工業大大学院准教授(憲法学)