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魏・蜀・呉の英雄たちをリアルで身近に感じる5冊 特別展「三国志」

文:北林のぶお ©関羽像 青銅製 明時代・15~16世紀 新郷市博物館蔵
  1. 「三国志英雄伝 落談まさし版」[著]さだまさし
  2. 「魏志倭人伝の謎を解く―三国志から見る邪馬台国」[著]渡邉義浩
  3. 「世説新語(新釈漢文大系シリーズ)」[著]目加田誠
  4. 「蜀の美術:鏡と石造遺物にみる後漢期の四川文化」[著]楢山満照

(1)『三国志英雄伝 落談まさし版』は、軽妙なトークでも知られるシンガーソングライターの大御所、さだまさしさんによる「語り」を文章化。桃園結義から始まる物語を速読できて、特に三国志ビギナーにはオススメです。

 「三国志にちょっと興味を持ったという人にとっては、有名な作品だと何巻もあって、初めて読むのには大変かもしれません。これは薄めの文庫本で、三国志演義のストーリーが一気に読めてしまいます。しかも、彼の独特の語り口調で面白いので、サクサク入ってきます。登場人物のやりとりが現代の人々のようで、いい意味で歴史を感じさせないというのがポイントの一つ。劉備が優しくて弱々しいキャラクターだというのも共感できて、ワクワクするような物語。吉川三国志や横山三国志のように“さだ三国志”として完成されていると言ってもいいでしょう」

関帝廟壁画「張飛、督郵を鞭打つ」 三国志演義で張飛が役人をむち打つ場面を描いた、関帝廟の壁画なども展示 <土製、彩色 清時代・十八世紀 内蒙古博物院蔵>
関帝廟壁画「張飛、督郵を鞭打つ」 三国志演義で張飛が役人をむち打つ場面を描いた、関帝廟の壁画なども展示 <土製、彩色 清時代・十八世紀 内蒙古博物院蔵>

(2)数多くの三国志本や論文を手掛けてきた渡邉義浩さんの『魏志倭人伝の謎を解く―三国志から見る邪馬台国』。三国をめぐる当時の国際情勢をひも解くだけでなく、日本の古代史最大のミステリーに一石を投じています。

 「三国志と邪馬台国は、実は同じ時代を扱っているのに、お互いのコミュニティの接点はあまりないんですよね。渡邉先生の著作によってそれが邂逅(かいこう)する、という視点で読むと面白いと思います。そもそも『魏志倭人伝』は三国志(正史)の魏書の一つに記述されていて、蜀出身の官僚であった陳寿が魏を正統として書かなければならなかった。それを踏まえて位置づける必要があるというのが、渡邉先生のスタンス。魏の権威を示すために、遠くにある倭の記述に文字量を割くことは、呉をけん制することにもつながります。これまでの邪馬台国の議論を次のステージに押し上げたという点でも、画期的な本です」

「把手付容器」公孫氏の勢力下にあった遼東地域で見つかった把手付容器。日本でよく似た木器が出土している <土製 後漢~三国時代(魏)・三世紀 遼陽博物館蔵>
「把手付容器」公孫氏の勢力下にあった遼東地域で見つかった把手付容器。日本でよく似た木器が出土している <土製 後漢~三国時代(魏)・三世紀 遼陽博物館蔵>

(3)5世紀に南北朝時代の宋の劉義慶が編集した『世説新語』は、後漢から東晋にかけての有名人の逸話を集めた短編集。曹操、諸葛亮や司馬一族など、三国志でおなじみの人物も登場します。

 「一言で言えば、面白エピソード集です。正史の三国志には拾われないような、ちょっとした小話を『学問に優れた人』や『義を貫いた人』などのジャンルごとに紹介して、それが面白い。現代でも話を“盛る”ことがありますが、その“盛り方”から当時の時代性や人間の機微などがうかがえ、それは公文書からは読み取れないことだと思います。たとえば魏の明帝(曹叡、曹操の孫)は、部下の何晏が色白なのを見て化粧をしているのではないかと疑い、夏に熱いうどんを食べさせた。大汗をかいて化粧が落ちるどころか、顔がさらにテカテカになったという、そんなどうでもいいような話が載っているのが好きです。日本語訳は何種類か出ていますが、3巻ある新釈漢文大系は、原文・読み下し文・現代語訳の3つがセットになっているので、 漢文の勉強にも良いでしょう。索引を使って好きな人物のところを読むと、意外な一面が見えてきたりします」

「水鳥、鶏、犬」世説新語に七歩の才のエピソードがある曹植(曹操の息子で、継承者争いに敗れた)の墓からの出土品も日本初公開 <土製 三国時代(魏)・三世紀 東阿県文物管理書蔵>
「水鳥、鶏、犬」世説新語に七歩の才のエピソードがある曹植(曹操の息子で、継承者争いに敗れた)の墓からの出土品も日本初公開 <土製 三国時代(魏)・三世紀 東阿県文物管理書蔵>

(4)中国古代美術史を専門とする楢山満照さんによる『蜀の美術:鏡と石造遺物にみる後漢期の四川文化』は、当時の四川地域で作られた造形美術に着目。今回の展示の中では「蜀」にクローズアップした一冊です。

 「四川省を中心に出土した鏡や俑(人形)などの考古学的成果を、図像学的な観点から考察した本。その時代の文化や芸術から、生産体制や社会構造にまで踏み込んでいて、とても読みごたえがあります。たとえば、今回の特別展でも展示されている三段式神仙鏡は、分布範囲が五斗米道(漢中で勢力を持っていた初期道教の教団)の勢力範囲と重なることが指摘されています。楢山氏はさらに検証を重ね、文様全体には母性の発露と理想的な社会の姿が主要なテーマになっていると読み解いています。三国の文物には特徴があり、呉は交易や経済活動が盛んで、青磁を焼いたりしています。蜀は、俑の人物の表情がとてもにこやかで、幸福度が高いことがうかがえます。後漢王朝を継承した魏は、華やかさはないけど堅実で安定志向。それぞれ違いや目指した方向を、今回の特別展でも実物資料で体感していただければ」

「舞踊俑」蜀の地域から出土したユーモラスな表情の人形 <土製 後漢~三国時代(蜀)・二~三世紀 四川博物院蔵>
「舞踊俑」蜀の地域から出土したユーモラスな表情の人形 <土製 後漢~三国時代(蜀)・二~三世紀 四川博物院蔵>

編集部のおすすめ

漫画 三国志メシ[著]本庄敬

東京・練馬の中華料理屋を営む「三国志マニア」の店主・中(あたる)。劉備、関羽、張飛の3人が、桃園で義兄弟の契りを交わす逸話で出された「桃園の祝い膳」の献立を再現するところから物語が始まります。三国時代と現代とを行き来し、「三国志」に登場する食を紹介しながら各話で出てくる料理のレシピも掲載されています。武将や軍師の「食ネタ」満載の物語を紡ぐのは、グルメにまつわる作品を数多く手がける漫画家・本庄敬さん。読めばお腹が空いてくる歴史グルメ漫画になっています。