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マヒトゥ・ザ・ピーポーさんと植本一子さんが「<生活>と<孤独>について」対談

文:福アニー、写真:佐伯航平

一子さんの撮影は結構サディスティック

竹村優子(以下、竹村):今日はたくさんの方にお集まりいただきましてありがとうございます。幻冬舎でマヒトゥ・ザ・ピーポーさんの『銀河で一番静かな革命』の編集を担当いたしました竹村と申します。今日は司会をいたしますのでよろしくお願いいたします。

マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下、マヒト):こんにちは~、マヒトゥ・ザ・ピーポーです。よろしくお願いいたします。

植本一子(以下、植本):こんにちは、植本一子です。よろしくお願いいたします!

竹村:今日のトークイベントがなんでマヒトさんと植本さんの組み合わせなのかというと、『銀河で一番静かな革命』の帯のコメントも、表紙の写真も、中の写真も、プロフィール写真も、全部植本さんによるものだからなんですよ。

植本:そうですね、はじめてマヒトのプロフィール写真を撮りました。

竹村:植本さんの『台風一過』もマヒトさんの『銀河で一番静かな革命』も、鈴木成一さんがデザインしてくださったんですが、『銀河~』は鈴木さんとどういうデザインにするか全然決めていなかったんです。そんな折に植本さんから帯のコメントが一番最初に届いたので、それを鈴木さんにお送りしたら、「植本さんの写真の硬い光は、この小説の清廉な世界観に合ってると思う」っておっしゃってくださったんです。そして一緒にプロフィール写真も植本さんにお願いすることしました。

植本:そうなんですね! 最初撮りおろしってお話をいただいたときに、私じゃないほうがいいんじゃないかなって思ったんです。ちゃんとした世界観があるし、荷が重いなって(笑)。

マヒト:裸の写真をすごい推してましたよね。

植本:そうそう、イメージを撮りおろしてってことだったけど、銀河な感じを撮るのも想像できなかった。プロフィール写真を撮るときに、マヒトの写真を表紙にできたら一番いいんじゃないかなと思ったんだけど……。

マヒト:はじめての小説で、裸の表紙は結構勇気いりますよね(笑)。

植本:マヒトはパセリって漢字で書いてある赤い服を着てきたんですよ。「パセリかー」って思ってパパッと撮って、すぐ脱がせました(笑)。メイクさんも入れたし、風吹かせたり顔にオイル塗ったり霧吹きしたり、撮ってておもしろかったです。

マヒト:全部一子さんのディレクションのおかげですよ。俺もいろんなカメラマンに撮られてるけど、一子さんは結構サディスティックなスタイルだと思いましたよ。「あと1センチ、右右右、そうそうそう!」みたいに指示が細かいんです(笑)。ともあれ、小説は「自分が書きました!」みたいなのを推したくなかったから、最終的にはすごい気に入ってる表紙ですね。

植本:裸の写真はお蔵入りになったんですが、過去に撮った写真をバーッと鈴木さんに送ってそこから選んでくれたので、「これが表紙になったんだ」って思いましたね。

竹村:日常の窓の写真が宇宙にもつながっているみたいで、本当にぴったりだなと思いました。

マヒトとは生活圏内が近い、写真撮って送って

竹村:今日のトークテーマを「生活と孤独」にしたのは、マヒトさんの『銀河で一番静かな革命』は実はすごく日常の細やかな生活の描写がたくさんあって。植本さんの『台風一過』も生活そのものだと思うので、おふたりの生活についてお話ししていただきたいなと。

マヒト:「生活」が一番難しい。

植本:マヒトと私は生活圏内が近いんですよ。お互いの家のそばに川があるんですけど、赤い鯉がいたから「鯉がいるよ」って写真撮って送って、「そんな赤い鯉見たことない」ってやり取りしたり。

マヒト:自分のいる圏内の鯉は真っ黒で、いつもすごいなまけてるけど(笑)。昔、シンガーソングライターの寺尾紗穂さんに教えてもらったんですけど、人間の体は70%くらいが水だから川の近くにいるとなんかいいみたいな。川があるところは空気が流れていくし、ずっととどまらないから。自分もたまっちゃう場所よりも、自然とそういう場所を希望してるかもしれない。

植本:私は15年前、19歳くらいの時に広島のド田舎から出てきた。すごいのびのび自然と戯れて育ったんだけど、そこから東京に出てきて、渋谷の学校に通って。本当は下北沢に住みたかったけど希望の家賃ではいい物件がなくて、登戸から徒歩15分くらいのところに住んでたんです。でもそれがよかった。すぐ裏に多摩川があって、あのひらけた感じがなかったら東京しんどかったなと思って。

俺は草食動物的な回路でいろんなことを考えている

竹村:生活のパターンは決まってる感じですか?

マヒト:自分の場合、本当にルーティンがなくて。決まった時間に起きないし、起きたとしても15時くらいなんですよね。日常生活と言われたら川沿いを歩きながら鯉見たりタバコ吸ったりするくらいですかね。

植本:旦那さん(ラッパーのECD)が亡くなって、ひとりで子育てするの超大変だから、近所の人をどんどん巻き込んでいってるんですよ。そのなかにマヒトを巻き込みたい気持ちがあるんです。だけどなかなか起きてないから(笑)。

マヒト:むしろ早すぎると起きてるけどね。10、11時くらいまで起きてて、そこから寝て、夕方起きて遊びに行く。それなりにがんばってるんですけどね(笑)。

植本:GEZANのドキュメント映画「Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN」を見させてもらったんですよ。私も結婚する前はクラブやライブハウスで遊んでたから、オールとかもしてたし。そのノリをいまだに、しかも海外でやってる感じがすごくて、楽しそうだけど大変だろうなって思いました。寝る場所をその場で決める感じだったもんね? そこに来たお客さんに泊めてもらえませんかって。

マヒト:1カ月くらいツアーでアメリカに行ったんですけど、宿泊の交渉にしてもこういうお客さんならギターのイーグルがいけそう、こういうトラブルなら俺が担当だなとわかるようになってくる(笑)。クレーム対応は基本ベースのカルロスですね。GEZANチームは適材適所なんです。

竹村:(笑)。日常生活の習慣があることで、気持ちが整ったり心が落ち着いたりすることもあると思うんです。マヒトさんはどこで調整してるんですか?

マヒト:本書いてるときは、毎日書くっていうことに救われました。これ生活っぽいなって。書き終わったらまた荒れ始めましたね。ところでいま、馬が好きでいろいろ勉強してて。NUUAMM(シンガーソングライターの青葉市子とのユニット)のツアーで北海道に行ったときに野生の馬と触れ合ったんですけど、もう怖すぎて、野生の力を突きつけられましたね。力がないから鉄砲とか持っちゃうんだろうって、人間が武器を使いたくなる理由がすごいわかったなあ。

なんでこんなに馬にひかれるのかって考えた時に、草食動物は負の評価で、自分の危険を回避することが行動原理になっているから。「そこにいたくない」って気持ちを使ってコミュニケーションを取るんですよ。でも肉食動物は正の評価なんですよね。お手ができたらえさをあげたりごほうびをもらったりしてそれを喜ぶ回路。都会の行動原理って、全部正の評価だと思ってて。常に戦いの螺旋から下りられない感じが肉食動物的な場所だなと。自分は投げ銭でフードフリーで今年も手作りのフェス「全感覚祭」をやるんだけど、いまいる場所で戦って出し抜いてやろうっていうよりは、その場所にいたくないって感覚。そういう意味で俺は草食動物的な回路でいろんなことを考えているんだなと思って、馬はそういう感覚で生きてる動物だから、しっくりきてるのかもなって。

竹村:なるほど。植本さんはやりたくないこと、やらないようにしていることの一線はありますか?

植本さん:やらないようにしていることはたくさんある気がします。仕事を断ることも多いですね。

マヒト:やりたくないことはわりといつもあって。直感は間違えるけど、違和感や嫌悪感は体に正直に出てくると思うから、それを自分が選択するときの軸にするっていうのがしっくりきてますね。

誰かと向き合うことはもうできないと思っていた

竹村:植本さんは『銀河で一番静かな革命』の帯コメントで、「マヒトの手にかかれば日常は詩に溢れていて、終わりに向かった世界でも私たちは孤独だった。それでも決してひとりではないと教えてくれる」とおっしゃっていますよね。「孤独」ということと「ひとり」ではないということの使い分けは、どうやってしてるんですか?

植本:難しい~(笑)。この本に出てくる登場人物はみんなうまくやれない人たち側だから、そういう孤独な人たちがいっぱい出てくるけど、群れ合うわけじゃなくさみしいけどみんな一緒だったなっていう。ここまでマヒトに文才があることにびっくしりました。私は小説が苦手でノンフィクションやエッセイしか読まないんですけど、すぐ読めてよかったです。この小説、ちょっとしたSFじゃないですか。SFってほんとに読まないから、わけわかんないまんま宇宙空間で終わりってイメージがあったんですけど、ちゃんと集結しててすごいなって思いました。

マヒト:いまは政治も権力構造も世の中の考え方もSFとしかいいようがないくらい混乱してると思うし、もっと言ってしまえばギャグだなってくらい壊れておかしいなって。自分は生活って言葉が合うかわからないけど、まっすぐ書いたとしても歪んでいくというか、SF的なものになってしまう気がする。孤独って話で言うと、恋人がいたり結婚したり子供がいたり、そうすることで消える孤独って最初から孤独じゃないというか。恋愛や結婚したら孤独が消えて幸せってわけじゃない。自分が孤独って言葉を使うときは、そういうことじゃないんですよね。的確な言葉があると思うけど追いついてないです。

竹村:マヒトさんは「ひとりぼっち」って言葉をよく使いますけど、「孤独」と「ひとりぼっち」の違いについては?

マヒト:「孤独」のほうがちょっと強いですよね、字がカクカクしてる。「ひとりぼっち」のほうがつぶやきみたいな。

竹村:いい意味でも悪い意味でも、恋愛してると生活が変わりますか?

植本:恋愛のごたごたで、自分の心が右往左往する様子をいままでの本でバーッと書いてたから(笑)。最新刊の『台風一過』ではだいぶ落ち着いて、初めて穏やかな気持ちで読めたってよく言われますね。旦那さんが亡くなって、もう二度と誰とも結婚しないし付き合わない、誰かと向き合うことが自分にできるわけがないって境地に至ったんですよ、旦那さんとのあれこれを経て。でも旦那さんが亡くなってわりとすぐに出会った男の子がいて、その子と1年くらい一緒に住んでるんです。ほんと誰かと一緒にいるのは大変だなと思いながらがんばってるけど、1年も経ったら落ち着くし、だいぶ安定してきましたね。

竹村:書きたい気持ちは安定、不安定関係なしに出てきますか?

植本:以前の本は不安定だったからこそ、書いて発散しないと落ち着かなかったですね。でも安定してるからこそ書けるものもあると思うし。

マヒト:生活も恋愛もわからないですね……書けなくなることもいいことだと思う。ほんとは川で鯉見たり、銭湯に来てるおじいちゃんがする天気の会話だったりが理想だな。あの境地に行くために、言葉も感覚も使い切って超えようとしてる気がするんですけど。でもたとえば海みたいに見える景色がすごすぎると、なんか書こうとも曲作ろうとも思わなくなっちゃう。ある意味、こういう混沌とした街のほうが表現を求めてるのかなって思っちゃいましたね。

人の人生を間借りしたほうがしっくりくる

植本:『銀河で一番静かな革命』は竹村さんがぜひ書いてくださいって依頼してできたんですか?

竹村:私から依頼したわけではないですね。マヒトさんが少しだけ書き進めていた、最初の光太とゆうきのところを読ませてもらったら「これは!」と思って。マヒトさんは短編集のつもりだとおっしゃっていたけど、絶対ひとつの物語にしたほうがいいと。それが2017年の秋で、とりあえず完成させましょうという話をしました。その時点では出版するかどうかは決めていませんでした。

マヒト:ほんとだらだら書いてて。物語のキーとなる「通達」もはじめは想定してなくて思い付きで出てきて、そこから登場人物が右往左往し始めた感じがありましたね。実際倍くらい書いたし、登場人物ももうちょっといたし、終わり方も3、4パターンあったし、さらに広大な世界観でした。仮タイトルも『あのひと』でしたもんね。

植本:三人称で書かれてるのが意外だった。私は自分のことしか書けないから「私は~」になっちゃうけど、人物を動かすことができるのがすごいなって。小説というフィクションを書けるって尊敬するし、ほんとどうやって書いてるんだろうって思ったよ。

マヒト:表紙の写真から自分を追い出したかったのもそうだけど、自分と向き合って自分を反映させるというよりは、そこから逃げたかった。人の人生を間借りして、体験させてもらうみたいなほうがしっくりくるんですよね。

竹村:そろそろお時間がきてしまいました。

マヒト:今日はありがとうございました、お休みなさい~。

植本:ありがとうございました!