1. HOME
  2. インタビュー
  3. 夏の旅は文庫とともに
  4. 新幹線で読まれている文庫本は? 駅ナカ書店の店長がベスト10を解説

新幹線で読まれている文庫本は? 駅ナカ書店の店長がベスト10を解説

文・写真:北林のぶお (JR上野駅の新幹線改札内の通路にある「BOOK EXPRESS 上野新幹線店」にて)

トピックは『コンビニ人間』とゴルフ関連書

 通路に面した棚に整然と並べられた、雑誌やコミック、そして文庫本。50歳位のスーツ姿の男性が、迷うことなく週刊誌を手に取って購入し、エスカレーターに向かって歩を早めた。JR上野駅の「BOOK EXPRESS 上野新幹線店」は、新幹線改札内にある駅ナカ書店だ。

 山崎さんは、上野駅では在来線と新幹線のそれぞれの構内にある2つの店舗で、マネージャーとして店長業務を担当している。商業施設「エキュート」の中にある店舗は駅ナカ書店でも有数の売り場面積を誇るのに対して、新幹線の店舗は、通路に面したコンパクトな店構えとなっている。

 今回は、仙台と上野、2つの新幹線構内のBOOK EXPRESSでの、文庫本の売り上げランキングをまとめた。

 山崎さんがまず驚いたというのが、村田沙耶香さん『コンビニ人間』。2018年9月に文庫化され、今年上半期は上野新幹線店で2位の売り上げを記録している。もともと16年に芥川賞を受賞した人気小説ではあるが、新幹線乗客への売り上げは他と比べても突出しているという。文庫本になって勢いが特急的に加速した、珍しいケースだと言えよう。

 「今年に入ってもまだ売れているのが特徴的。ページも多くなくて手軽に読めるのと、文学賞で話題の作品というところもあって、手に取っていただいています」と山崎さんは話す。手に持った軽さ、文章の読みやすさは、電車に乗る人が本を選ぶ際の重要なポイントになっている。

 もう一つ印象的なのが、仙台店でコンスタントに人気の『ゴルフ ミス・ショットが驚くほどなくなる本』。ゴルフ雑誌の隣に陳列すると、効果は如実に現れるという。顧客層のメインは、出張で新幹線を利用する30~50代男性。彼らのハートをガッチリとつかむテーマの本が売れている。

最新の映画・ドラマ化作品は表紙を見せて陳列されている
最新の映画・ドラマ化作品は表紙を見せて陳列されている

東野圭吾、池井戸潤が不動の人気

 文庫本の大半を占める小説の中では、時代物よりもミステリーが強い。「ミステリー小説は手軽に読めるので、東野圭吾さん、湊かなえさんなど定番の作家の作品が多いですね」と山崎さんは語る。仙台店では、地元在住の伊坂幸太郎さんの人気も根強い。

 ここ数年で売り上げ上位を占めるのが、東野さんと池井戸潤さん。出張に向かうビジネスパーソンが池井戸作品を読んで、仕事へのモチベーションを上げる。そんな姿が想像できそうだ。

 映像化されることも多い両氏の小説だが、そのタイミングにかかわらず安定した人気を保っている。「池井戸さん、東野さんや、最近だと原田マハさん。その辺りの作家さんは過去の作品も読まれますので、切らさないようにそろえていますね」

 新幹線の店舗で求められるのは、限られたスペースで定番商品をしっかりそろえることだという。在来線の店舗では、通勤客などが定期的に訪れるため、目立つ商品の回転率を上げなければ飽きられる。それに対して、新幹線では初めてや久々の利用客が多く、店員のオススメなどの“わかりやすさ”が重要となる。店での滞在時間が圧倒的に短いのも、その理由の一つだ。

 わかりやすさの例が、話題性。作品がメディア化されたり、文学賞を受賞したタイミングでは、当然のように売れる。新幹線の店舗に固有の特徴は、その話題性の継続にある。「すぐに買わなくても気になっていて、お盆などにちょっと読もうかなと話題の本を買われるお客さまが多いのでは」と山崎さんは推察する。

 定番商品だけでなく、自ら話題性をつくろうと、JR東日本リテールネットは「エキナカ書店大賞」を年2回実施している。テーマは毎回変わるが、基本的には文庫本の小説。書店員が面白い本を推薦・投票し、受賞作は売り場でフィーチャーされる。2017年に受賞した阿川大樹さん『終電の神様』は、同年に上野新幹線店で売り上げ2位。駅が舞台で、読みやすい短編集ということもあり、駅ナカでのヒットが一般書店にも波及した。

実用書はビジネスパーソン向けが好調

 実用書の分野でも、コアな購買層である働きざかり男性向けのテーマが売れている。ゴルフ、ビジネス、雑学などが多く、『超訳 孫子の兵法 「最後に勝つ人」の絶対ルール』は仙台店でロングセラーになっている。「特に強いのが、PHP研究所と三笠書房の文庫。以前に担当していた東京駅の店では、ワゴンの一番いい場所を占めていました」と山崎さん。

 上野新幹線店では立川志の輔さん『古典落語100席』、仙台では『これでいいのか宮城県』など、クスッと笑える本では、それぞれのご当地のカラーが濃い。どこから読んでも良いという手軽さも、文庫本のメリットを引き立てている。

 山崎さんは「車内では今や当たり前のようにスマホの人が多いですけど、その中で本を読んでいる人を見るとうれしいですね。特にウチのブックカバーだと(笑)。読んだことのある本でも、文庫で装丁が変わるとテンションが上がりますよね。手に取ったときのワクワク感や、ページをめくるドキドキ感を、ぜひ実感してほしいです」と話していた。