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古谷田奈月さん「神前酔狂宴」インタビュー 「虚飾」に尽くす快感と危うさ

古谷田奈月さん

 婚礼、軍神、国家。厳かな言葉は、小説を読むとひっくり返る。古谷田(こやた)奈月さんの『神前酔狂宴(しんぜんすいきょうえん)』(河出書房新社)は、それらの核心にある空虚さに触れようとする長編だ。

 18歳の浜野は、時給の良さからバイト先を選んだ。それは明治期の軍神をまつった神社に併設された結婚披露宴会場のスタッフ。古谷田さん自身、数年前に神社併設の結婚式場で働いていた。各自の宗教に関係なく、拝殿前を通るときにスタッフは一礼するというルールは実際のもの。「一瞬、何に頭を下げているのだろう、と疑問に思う。心を殺して従っていました」。本来信心から生まれる行為を、強制的に、継続的にさせられる。新郎新婦にはうやうやしく、というのも同じ。

 やる気のなかった浜野だが、披露宴の本質が「虚飾の限りを尽くすこと」だと気づき、目覚める。新郎にひざまずいた浜野には、「おれの新郎」という意識が生まれ、喜びになる。宴が一つ終わればまた次の王へ。虚飾を尽くして、ひざまずく。力強い語りが興奮を呼ぶ。「書きながら私も超ひざまずいてましたね。安心と快感がある」

 「大きな力の周りにいる人々はすごく気になります。不思議にも見える。私はもともと小説を書く人間だとわかっているから迷いはないのですが、不安なのかな。信じるものがほしいんだと思う。大きな力に身をゆだねず、自分自身の心と向き合うことが大事だと思います」(中村真理子)=朝日新聞2019年7月31日掲載