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#30  “エモい”温泉を求めて 福島・田村

聖石温泉の窓際に並んでいたアヒルたち

 今年2月、福島県田村市に滞在した。廃校となった小学校の校舎を活用したテレワーク施設「テラス石森」をレポートするという仕事のためだった。これまで福島県を訪れたことは何度もあるが、その仕事がなければ、田村市という街さえ知らなかったと思う。テラス石森で、溜まった原稿を書いたり、地元で活躍している人々にインタビューをしたり、観光名所の「あぶくま洞」に立ち寄ったりもして、なかなかに充実した2泊3日だった。

 宿泊していた「花の湯」が温泉宿で、贅沢なことに毎日温泉三昧だったのだが(死海のように塩分濃度が高く、ぷかぷかと体が浮く「死海風呂」という個性的な風呂が印象的だった)、せっかくなら別の温泉にも入りたいと思い、Google検索で「聖石温泉」という温泉を見つけた。 

聖石温泉の若女将、村越芽生さん。金髪がトレードマークだ。

 聖石温泉は、国道349号沿いにあって、民家のような見た目だった。入り口には、数羽のニワトリが放し飼いになっていた(聞けば、“ソウル”や“雷蔵”などとちゃんと名前があり、ペットだという)。お盆の季節に祖父母の家へ遊びに行った時のような、何だかとても懐かしい雰囲気が漂う。

 笑顔で出迎えてくれたのは、村越芽生さんだ。1998年生まれ。郡山市の調理専門学校を卒業後、聖石温泉の若女将を務めている。もともとは祖父の家で家庭用の風呂として使っていたのだが、97年から一般に開放したという。

田村市内の様子。のんびりとした田舎町だ。

 茶褐色の湯の主成分は鉄分。神経痛や筋肉痛、関節痛に効果があるとされていて、村越さんは「温泉に入ったあと、持ってきた杖を忘れる人がいるほど。それだけ元気になった証拠なんです」と笑う。食堂も併設しており、地元の人にとっては憩いの場のようだ。

 田村市の観光キャンペーンクルーとしても活動する村越さん。「県内のお客さんだけではなくて、これからは県外のお客さんにもたくさん来てほしくて。SNSを活用して、もっと田村市のことをPRできたらいいなと思っています」。10歳ほど年が離れていたが、しっかりと抱負を語る彼女はとても逞しかった。

聖石温泉の浴室内。変に飾らず、ありのままな感じがまたいい。

 温泉にまつわる本はたくさんあるが、ここ最近読んだなかで、最も旅情をそそってくれたのが、魚谷祐介の『侘寂温泉』(辰巳出版)という本だ。魚谷さんは、1年以上をかけて日本全国120箇所以上の温泉を取材。東日本編と西日本編と2冊に分けて、日本全国の“渋い温泉”の写真をメインに紹介している。“昭和の原風景”、いや、今風に言うと非常に“エモい”(※趣があると言う意)景色が詰まっていて、ページをめくるだけで楽しい。

回転の速すぎる今の世の中で、時代の後端に押しやられたはずの古びた温泉。侘びしく寂しくも見えるその佇まいの奥底に、美しさへの直感や、忘れていた郷愁を見つけることがある。湯に浸かり目を閉じれば、自分はどこから来てどこへ行くのか、そんな根源的な問いが深まっていく。(2-3ページ)

 結局のところ、私は“エモい”温泉が好きなのだと思う。昨今は廃業や休業に追い込まれる温泉も多いが、一方で伝統を引き継ぎ、湯を日々守ってくれている人がいるのだ。いち温泉ファンとして、感謝しかない。今回、聖石温泉に出会って、若い人が頑張っていると知って、ますます応援せねばという気持ちになった。村越さん、これからも聖石温泉、続けてくださいね!