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「晴れの日」「雨の日」には何を読む? 女優・佐久間由衣さんがセレクトした気分に合わせて読みたい文庫本

文:岩本恵美、写真:篠塚ようこ、ヘアメイク:吉﨑沙世子、スタイリスト:木津明子(ワンピース¥149,000=クリスチャン ワイナンツ/ショールーム リンクス☎0120-61-1315、ヘアピン・シューズはスタイリスト私物)

――「思い立ったときに、感情のままに本を読んでいる」という、夏の空のように気まぐれな読書家の佐久間さん。読むときは1日に3冊もの本を読んだかと思えば、読まないときはまったく読まないという日もあるのだそう。そんな彼女が「晴れの日」「雨の日」に読みたい本とは……?

 私自身、気持ちが天気に左右されることもあって、晴れだと何事もうまくいくような気がするし、雨だとちょっとしたことでも自分の中で消化するまでに時間がかかります。基本的に晴れの日は「陽」、雨の日は「陰」という、そのままの気分の延長線上で読んでもらいたいと選んでみました。

【晴れの日に読みたい】パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』(角川文庫)

 晴れの日に読みたいのは、圧倒的に「陽」のイメージがある本。読むと背中を押してもらえる『アルケミスト 夢を旅した少年』を選びました。

 ふだん翻訳本はあまり読まないのですが、「読みやすい」と勧められて10代のころに初めて読みました。ひとりの少年が冒険をしながら人生の知恵を学んでいく話で、哲学書に近いと感じます。いろんな方がおすすめしている本ですが、いざ読んでみるとおすすめしたい気持ちがわかると思います。読む人それぞれが置かれている状況によって捉え方が違うからこそ、いろんな方の「座右の書」の様な存在になっているのかなと思います。

 私も、初めて読んだ10代のときと今では感じることが違います。10代のころは怖いもの知らずというか、“無敵感”があって、人の話なんて聞こえてこなかったですし、自分のやりたいようにやって当たり前だと思っていました。今読んでみると、やりたいことや成し遂げたいことがあったときに、結果ももちろん大事ですけど、そこに行き着くまでに自分が何を考えて選択をしていったのかっていう過程が財産だし、そこに価値があるということを肯定してもらえた気がしました。ちゃんと背中を押してくれる本。自立している方にもおすすめだと思います。

【雨の日に読みたい】中村文則『何もかも憂鬱な夜に』(集英社文庫)

 雨が降っていて何もやる気が出ない日は、無理に元気になろうとするんじゃなくて、そういう気分に浸ってみるのもいいんじゃないかなと、中村文則さんの『何もかも憂鬱な夜に』を選びました。

 基本的に中村文則さんの小説は、圧倒的な「陰」。中村さんは小説で宗教の負の面や犯罪などについて書かれていることが多くて、ジメッとした感じが雨の日にぴったりなんです。この作品も、施設で育った刑務官の主人公と夫婦を刺殺した未決囚のお話。最後もほとんど救いがないし、心が本当に憂鬱になるんですけど、ヒリヒリしてせつない気持ちになります。

 殺人事件など端から見たら悪いことも、事件を起こした人物の目線では世界がまた違って見えているのかと、ドキュメンタリーみたいな感覚で読んでいます。読み終えると「悪」なんだけど「悪」に見えなくなって、ちょっとせつない気持ちになるんです。

 中村さんの作品にはきれいごとがないし、人間の泥臭いところを容赦なくペッて吐き出している感じが、私にとっては気持ちいい。読んでいてすごいジメジメしているんですけど、そういう部分と向き合うことって本ならではだと思います。

読んでいない本がいっぱいあるって幸せなこと

――ふだんから、週1で本屋に行っているという佐久間さん。どのように読む本を選んでいるのでしょうか。紙の本へのこだわりや読書の魅力など、溢れ出す本への思いを語ってもらいました。

 単行本、文庫本問わず、紙の本が好きなんです。フォルムも好きだし、匂いも好き。紙の本のアナログ感が好きで、私は物としての本そのものが好きなんだと思いますね。それもあって、本屋さんに行ってウロウロする時間はすごく好きです。お店によって推している本が全然違うので、それを知るのも面白い。好きな作家さんの新作が前に出ているとすごくうれしいですし、店員さんのコメントが書かれているポップとかもたまらないですね。

 この時期は各社で文庫フェアをやっているのを見かけると、「夏が来た」という気分にもなります。今まで読んできた本や名作が並んでいるのを見ると、もう一度読み返してみようかなって思いますね。夏目漱石や太宰治などの名作の文庫本は、出版社によって装丁が違うのも面白いです。

 読む本は、ジャンルとしては純文学が多いですね。太宰治や中村文則さん、西加奈子さんが好きです。でも、エッセイや料理本など幅広く読んでいます。好きな作家さんの新作はもちろん、棚を眺めてタイトルから面白そうだなと思うものや、直木賞・芥川賞の作品はチェックするようにしています。

 あと、映像作品を見て原作を読むということもあります。映画などを見ていて文学の匂いを感じたら、どんな原作から生まれているんだろうと興味をもって読むことが多いです。最近だと、佐藤泰志さんの『きみの鳥はうたえる』を読みました。石田衣良さんの『娼年』も読んでみたいですね。

 私が読書を好きになったのも、18歳のときに映画を見てから読んだ太宰治の『パンドラの匣』がきっかけです。それまでは、両親や家族に「本を読みなさい」って言われても、反抗心からか、ほとんど読まなかったんですけど、この作品はなぜだか引き寄せられるように読みました。今まで人に打ち明けずに自分で色々と考えていたことが、「同じように思っている人っていたんだ」と思えて、本を開いたらこんなに寄り添ってくれるところがあることを知ったんです。そこから、読書への道がいきなり開けていきました。

 しかも、読んでいない本がいっぱいあるということは、これからいくらでも読めるということ。そう思ったら、知らないってめちゃくちゃ幸せなことだなって、本を読むのにどハマりしていったんですよね。読書って、簡単に自分の現実とは全く違う世界に行けて、違う人の人生を覗き見ることができるもの。それってすごく贅沢なことだと思いますし、喜びに近いです。