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宮部みゆきさん「さよならの儀式」 インタビュー 正面からSFに、日常の恐怖から発想 

宮部みゆきさん=東京都港区、植田真紗美撮影

 社会の一面を鋭く切り取るミステリー、時代小説、ファンタジーと幅広いジャンルを手がけてきた宮部みゆきさんが、正面からSFに向き合った。短編集『さよならの儀式』(河出書房新社)は、読み込むほどに身につまされ、身近な社会の不気味さが透けて見える。「本質的に怪談作家」という宮部さんは「私のエッセンスがほとんど全部つまっている」と話す。

 過去の自分が現在にタイムスリップしたり、宇宙から未知の生命体がやって来たり。書評家の大森望さんが責任編集を務めたSFアンソロジー「NOVA」に寄せた作品など8編が収録された。

 「SFの定番の素材を使って、自分ならこうしたいと書くのは楽しく、チャレンジだった」と宮部さん。新鮮だったのは言葉遣い。「パソコンで『侵略者』『保安官』『戦闘員』などと変換した時は、ちょっと感動しました。私の作風では普段打つことがないから。うちのパソコンも『最近、えらい珍しい言葉を変換しはるなあ』と思っていたのでは」

 登場人物はみな身近にいそうな人たちばかり。「自分の日常から発想するのは、これまでと変わらなかった。日常が何でもネタになる、幸せな作風です」

 表題作の「さよならの儀式」は、一緒に長年暮らしたロボットとの別れが描かれる。足腰の弱った両親に贈ったロボット掃除機「ルンバ」が発想のもとになった。とくに父は大のお気に入りで、動く後を家中ついて回った。敷居に行き当たると、「おい、大丈夫か」と声をかけて救出していた。「『頑張って毎日掃除してくれるんだよ』って、いや、ロボットなんだけど。あんな円盤でしょ? 動物の形もしていないのにかわいがった。人間ってそうなんだなと思ってね」

 昨年書き上げた「母の法律」は、虐待を防ぐため、子どもの親権を国家が管理する社会が舞台だ。「怖いなと思ったのは、過激派が出てきてしまうこと。社会を変えるためなら、何をやっても良いと思ってしまう人が、よろずのことに出てくる。取り締まる側も容赦ないことをする」

 収録されたうち、約10年前、一番初めに書いたのが「聖痕」で、直近が「母の法律」。どちらも児童虐待がテーマだということに、後から気づいた。「この10年、まったく解決しなかったこの問題に、思うところを書かずにいられなくて繰り返し取り上げたのかな」

 フィリップ・K・ディックの短編に着想を得たり、伊藤計劃(けいかく)の遺稿を円城塔さんが書き継いだ『屍者(ししゃ)の帝国』の世界観に沿った作品だったりと、強いSF愛がこもる。一方で、他ジャンルの自作との共通項を認識した。「怖がりだから、自分が日々怖い、嫌だなと思うことを書いている。それはSFでも一緒だった」(興野優平)=朝日新聞2019年8月21日掲載