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京極夏彦、瀬戸内寂聴…人気作家らが人生の知恵を伝授 大人も楽しめる教養書「17歳の特別教室」シリーズ

文:朝宮運河 写真:山田秀隆

現役高校生を相手に「特別授業」

 講談社が、新しい教養書「17歳の特別教室」シリーズの刊行を8月下旬から始める。現代を生き抜くうえで必要な知恵を、作家・哲学者・宗教家・歴史学者などの6人が披露したもので、現役高校生を相手に実際の「特別授業」をおこない、その模様をもとに書籍化する。

 この企画はどのように生まれたのか。シリーズの編集を担当している講談社文芸第一出版部・見田葉子さんにうかがった。
 「各分野の第一線で長年活躍されてきた方には、きっと次の世代に伝えたい知恵やメッセージがあるはずです。それを特別授業という形で披露していただこう、という試みです。今回授業をお願いした6人は、皆さんご自分だけの世界と言葉を持たれています。私たちが授業を聞いてみたい、と心から思える方ばかり。大人が読んでも面白い、これまでにない教養叢書を目指しました」

 シリーズ創刊第1弾として、高橋源一郎さんの『答えより問いを探して』と、佐藤優さんの『人生のサバイバル力』が同時発売される。高橋さんは作家としてのキャリアをもとに、「読む」「書く」ことを通して自分を見つめ直す方法を伝授。一方、佐藤さんは吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』をテキストに、これからの時代に必要とされるものの見方・考え方について語った。授業はそれぞれ2人とゆかりのある学校で2日間にわたって行われた。
 見田さんは「すごく白熱した授業になりました。相手が10代であるからこそ、語られる内容も核心を突いたものになります。授業のライブ感は、書籍にも反映されていると思います」と話す。

京極夏彦さん「言葉をたくさん知っておくことが大切」

 7月27日には、作家の京極夏彦さんが「たたかわないために~語彙と思考」と題し、10代限定の特別講義をおこなった。東京都内の会場に集まったのは、全国から抽選で選ばれた15~19歳の50名の若者たち。言葉のもつ響きや視覚効果にこだわった小説で知られる京極さんは、「言葉は人類による最大の発明」としながらも、「多くのものをそぎ落として成り立っている。『わたしは悲しい』という言葉の背後には、悲しい以外にも多くの感情が存在しているが、口にした瞬間それらは抜け落ちてしまう。言葉はもともと誤解を生みやすいもの。言葉だけでやり取りするSNSが炎上するのも当然です」と、言葉の本質を丁寧に解説。

 そのうえで、「誤解を与えないためには、言葉をたくさん知っておくことが大切。たくさんの言葉を知って使いこなすことで世界は広がり、人生は豊かになる。そのためにはたくさん本を読もう」とメッセージを贈った。授業後に設けられた質疑応答タイムには、「言霊はあるのか」「本を隙間なく並べるコツは?」などの多くの質問が。随所にユーモアを織りまぜながら、10代の問いかけに真摯に答えている京極さんの姿が印象的だった。この日の授業は、11月にシリーズの一冊『語彙力は人生力』(仮)として刊行される予定だ。

「人生のイエローページ」として

 9月末には第2弾として、瀬戸内寂聴さんの『97歳の悩み相談』が登場。こちらは10代から寄せられた「恋人ができない」「将来やりたいことがない」などの悩みに、瀬戸内さんが豊富な人生経験をもとに答えた一冊。その後も、アドラー心理学の紹介で知られる哲学者・岸見一郎さんの『哲学人生問答』、国際日本文化研究センター准教授で歴史学者の磯田道史さんの『歴史を学んで未来に生かす』(仮)が控えている。

 デザイナー・寄藤文平さんが手がけたブックカバーは、鮮やかな黄色。「編集部では、人生のイエローページと呼んでいるんです」と見田さん。
 見田さんとともにシリーズを担当する編集者・森山悦子さんは、「大学から文学部がなくなるなど『教育の実学化』が進んでいます。文学的なものの見方にこそ、人生を生きる大切な知恵があるはず。猛スピードで多くの情報が飛び交う時代、立ち止まって、じっくり言葉の広さを感じてもらえたら」と話す。

 政治も経済も先行きが不透明な時代。これからを生きる10代はもちろん、あらためて教養を身につけたい大人にもお勧めしたいシリーズだ。