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「幻島図鑑」書評 現実の 無人孤島に 胸さわぎ

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月31日
幻島図鑑 不思議な島の物語 著者:清水浩史 出版社:河出書房新社 ジャンル:紀行・旅行記

ISBN: 9784309290355
発売⽇: 2019/07/10
サイズ: 21cm/287p

幻島図鑑 不思議な島の物語 [著]清水浩史

 「幻島図鑑」〈不思議な島の物語〉という表題に思わず飛びついた。血湧き肉躍ったあの少年時代に一気に瞬間移動。幻島と聞けばベルヌ「神秘の島」、ウェルズ「モロー博士の島」、乱歩「パノラマ島奇談」を想像。
 震える手でこの本を開いた。「アレッ!?」。本書はボクが妄想した怪奇海洋幻想冒険譚ではなく、人口ほぼ0人の無人孤島を巡る「珠玉の日本・幻島ガイドブック」(帯文)ではないか。架空の島ではなく現実の無人島なんだ。だけど、待てよ、見えない何かが胸騒ぎを起こす。(その正体は?)
 冒頭、あった島が海面下に消えて失くなった。(アトランティス? ムー?)オホーツク海のエサンベ鼻北小島の話。いきなり、これだ。現実が仮想化、小説より奇なりだ。
 次は鵜渡根(うどね)島。まるでエジプトの三つ並んだギザのピラミッドそっくりなのは東京都所在。人など寄せつけない険しい島に、神社がポツン。そんな人を拒絶した島に、ある民俗学者が崖を這い上がって、神社の祠の中のご神体を取りだして、写真を撮った。何か祟りがなきゃいいが、と思ったら近くの新島に異変が起こり、その挙句、学者は重い病に倒れる。フィクションより怖いですね。
 どこかベックリンの絵「死の島」を彷彿とさせる軍艦島(石川県・見附島)は造形芸術。霊感を刺激するカッコイイ島。
 羽島(山口県萩沖)は過疎化のため、住民達が島を売ってしまった。やがて公共のレジャー施設「夢の島」として脚光を浴びたが、繁栄と滅亡の法則に従って、ルネ・クレールの映画のように「そして誰もいなくなった」。
 ねずみ島はねずみの形そっくり。名は体を表して、愛媛のこの地方の島々では、ねずみ算的に大量の大群がぎゃおぎゃおと物凄い声をあげて海を渡った。シュールで幻のような島々の不思議な物語が満載。フィクションを超える幻島はこの後もまだ続く。
    ◇
 しみず・ひろし 1971年生まれ。編集者・ライター。海と島の旅を続ける。著書に『秘島図鑑』『深夜航路』など。