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飯野和好さんの絵本「ねぎぼうずのあさたろう」 「ねぎじる」をぴゅるぴゅる出して、悪をスカッと成敗

文:根津香菜子、写真:斉藤順子

――飯野和好さんの絵本「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズは、三度笠をかぶった股旅姿のねぎぼうず「あさたろう」が畑を飛び出し、東海道を旅する物語。1999年に第1作の『とうげのまちぶせ』が出版されてから次々と続編が作られ、現在は10巻まで出ている。弱い者いじめをする「やつがしらのごんべえ」や、みそ蔵をおそう「みそだまのでんごろう」などの「悪役」が登場し、あさたろうが勇気を振り絞って必殺技の「ねぎじる」を「ぴゅるぴゅるぴゅるっ」と出して成敗するという、勧善懲悪をはっきり描いた内容だ。

 正義と悪をはっきり描くのが好きなんです。私が子供の頃は、何か悪い事をしたら親だけでなく、近所のおじさんにも叱られたものです。今は、よその子供に注意したりお説教したりすることを自粛している風潮ですが、そうすると人と関わることの面白みがなくなっちゃうんですよね。

 「あさたろう」は元々、「学習幼稚園」(小学館)という雑誌で、3回くらいの連載用に描いたんです。担当者から「ためにならなくてもいいから、男の子向けの時代ものを書いてくれ」と言われ、自分が子供の頃に夢中になって遊んでいた、チャンバラごっこを元にしようと思いつきました。悪者をやっつけて、啖呵を切るセリフがあって――。そういうスカッとするところが、見ていて気持ちのいいところなんですよね。

 当時のチャンバラ劇はとても迫力があって、役者もギラギラしたエネルギーを放っていたんです。映画を見て、すぐに自分で刀を作ってチャンバラごっこをして遊んでいました。ヒーローになりたかったんですよ。その憧れを絵本にしようと思ったんです。私が子供の頃にあれだけ夢中になって遊んだチャンバラの面白さは、絶対に今の子供たちにも伝わるんじゃないかと思いました。

「ねぎぼうずのあさたろう その9 あめのつちやま きゅうべえのおもい!」(福音館書店)より

――雑誌の連載が終わった後、この作品をどうしても絵本にしたいと思った飯野さんは、見本を作ってあちこちの出版社を回った。しかし、どこに行っても「時代物の浪曲なんて子供は分からない、こんなのは絵本じゃない」と散々な結果に終わった。

 何とか、どこかの出版社から絵本として出してくれないかと思い「孫とおじいさん、おばあさんをつなぐような絵本になるんじゃないか」という売り込み文句を考えました。そんな時、当時の福音館書店の方が「あさたろうのその後も気になるので、ちゃんととした形にしてください」と言ってくださって、絵本化が決まったんです。あさたろうの物語がまだ続けられると聞いたときは嬉しくて、3、4巻あたりまでの物語がすぐに頭に浮かびました。

――「はるがすみ~むさしのくにの つちのかおり」といった「二代広沢虎造風浪曲節」で始まる本シリーズ。浪曲は飯野さんにとって子供の頃から身近な音楽だったと言う。特に「清水次郎長伝」などで知られる二代目広沢虎造が好きで、よく真似していたそう。

 この作品を絵本として作り直すときに、浪曲を本文に入れてみようと思ったんです。お店で浪曲のCDやカセットをたくさん買ってきて改めて聞くと、セリフもかっこよくて「こんなに面白いんだ」と思いました。そこで、絵本に浪曲を取り入れようと思ったんです。

取材後、愛用の「カンカラ三線(さんしん)」で一節披露してくれた飯野さん

――本作の時代設定は江戸時代。キャラクターたちのセリフも「てやんでぃ」や「べらぼうめ」などの「江戸言葉」を使っている。

 もしタイムマシーンで過去に行けるなら、一番行きたいのが江戸時代なんです。同じ日本人でも、明治以前は話し言葉もちょっと違うし、ちょんまげをつけたヘアスタイルも不思議ですよね。町には悪者もいるんだけど、その善悪のバランスが好きで、江戸時代を舞台にした作品を描きたいと思いました。親の呼び方も「おっかさん」や「おとっつあん」とか、今の子供が使わないような言葉をきっちり使っていることで、時代に関係なく、今の子供たちにも楽しんでもらえるような作品になっているかなと思います。

「ねぎぼうずのあさたろう その9 あめのつちやま きゅうべえのおもい!」(福音館書店)より

 一方、あさたろうを描く上で一番こだわっているのは目線です。子供、大人関係なく、まなざしが魅力的な人っているじゃないですか。あさたろうのモデルになっているのは、萬屋錦之介(よろずやきんのすけ)という昭和の役者さんです。彼を含め、当時の役者さんには人を引き付けるものすごい目力があって、その中には色気があるんですよ。色気というのは、生命力から生まれてくるものなんです。あさたろうも、自分の生命力でねぎじるを飛ばすので、その目には色気や生命力が大事なんです。

――シリーズ9作目の『あめのつちやま きゅうべえのおもい』では、1巻であさたろうに切りかかってきたきゅうりの浪人「きゅうべえ」が、あさたろうを追って再び登場する。二人の出会いとなった1巻を読み返してみると、ふと、あることに気がついた。きゅうべえの顔色が、最初は鮮やかな緑色だったのに、9巻では古漬けのような茶色がかった色になっているではないか。

 あさたろうにとっては、一緒に旅をする「にきち」との出会いも大きいんですが、1作目で出会ったきゅうべえの存在はずっと気になっていたんです。きゅうべえは1巻で、簡単に倒せると思っていたあさたろうからねぎじるを浴びせられ、普通じゃないやられ方をします。その時、浪人者としての自分に、何となくじくじくした気持ちがあったきゅうべえの心に「何だこれは?」という疑問と「もう一度ねぎじるを浴びたら、自分の中の何かが断ち切れるんじゃないか」という思いが生まれて、あさたろうを追いかけてくる真面目な侍なんですよ(笑)。

 ねぎじるを浴びたきゅうべえの変化が「漬物みたいな色」になったんですね。そして、あさたろうも、もう一回「ねぎじる」を浴びたいと追いかけてきたきゅうべえに衝撃を受けるんです。「自分のねぎじるが、あんなに人(野菜)を変えるんだ」ってね。あさたろう自身も、まだ「ねぎじる」の効果が何かつかんでいないけど、この9巻での出来事が、あさたろうに少しずつ変化が起こりはじめる、ターニングポイントになっているんです。

――10巻の『ゆきはこんこん わたりどり』では、旅のゴールである京都に着く手前で「こしあん和尚」と出会う。こしあん和尚から禅問答をしかけられたあさたろうは、自分を見つめなおすため、故郷に戻ることに。次巻の道中では、どんな出来事が待ち受けているのだろうか。

 次巻の中山道編はシリーズ初めての長編になる予定です。これは作り手として、非常にワクワクしますよ。短編映画ばっかり撮っている監督が、長編を撮りませんか?と言われているようなものですから。

 今まで通った東海道は海街道なので、道中も割と明るいんですけど、これから故郷に帰る中山道は山街道ですから、幕末の頃はちょっと暗いイメージなんです。そこで生活している木こりや炭焼きなど、山の人たちの暮らしはとても濃いものがあります。あさたろうは秩父のねぎ畑出身なので、そういう人たちと出会うたびに、故郷への想いが強くなっていくことでしょう。次の11巻で本シリーズは完結する予定ですが、あさたろうは自分の中でずっと生き続けているので、私のライフワークになっている作品です。