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上田岳弘さんが何度も巻き戻して聞いたMr.Children「シーラカンス」 「深海」さまよう像、思春期に刺さった

 音楽生成機器のなかで、かつての主力は「ミニコンポ」だった。僕が高校を卒業するくらいの頃だから、20世紀の末ごろ。例えば高校の入学祝いなんかに買ってもらう。あるいはアルバイトをして自分で買う。CD、FM/AMラジオ、カセットテープ、少し時代を遡ると、レコードプレイヤー、それらが全部ついている万能機。パッシブスピーカーとセットになっていて、組み合わせた全体デザインは、どのメーカーが一番かっこいいのか。あるいはどのメーカーが一番音がいいのか。クラスに一人は必ずいるオーディオ好きの友人とよく語り合った。
 CD-Rのない時代。ミニコンポを持っていたとしても、友人にもらった音源を再生するのはカセットテープだった。限られたお小遣いの中では、興味のあるCDをすべて買うことはできない。おまけに当時の興味の対象は音楽だけではなくて、漫画や小説、ゲーム、などなど多岐にわたる。そこで友人が持っているCDをカセットテープにダビングしてもらい、それを聴くことで音楽を共有していた。

 10代の頃、記憶に残っているアルバムもテープに録音されたものの一つだった。Mr.Childrenの「深海」。それから、続く「BOLERO」。特に「深海」は、それを録音したテープの色まで思い出せるくらい愛着があった。データ音源があたりまえになって、「擦り切れるほど聴いた」という慣用句があてはまらなくなって久しいけれど、23年前の当時、僕はそのテープを文字通り擦り切れるほど聴いたのだった。
 当時大ヒットを飛ばし続けていたバンドだったから、ヒットシングルを並べたアルバムになりそうなものだけど、そうではなく、「深海」に含まれるシングル曲は2作だけだった。(後に「マシンガンをぶっ放せ」がシングルカットされるけれど、シングルが5曲入った「BOLERO」と好対照だった)1曲目は、海面から海中へと飛び込むようなイントロから始まる「Dive」という曲で、「深海」という名前に則したコンセプト色の強いアルバムだった。

 中でも「シーラカンス」という曲が好きだった。深海をさまよう魚に自分を投影させて歌いあげるのは、比喩としては直接的だけれど、当時思春期真っただ中であった僕には刺さるものがあった。
カセットテープの頭出し機能を使って、何度も何度も巻き戻してはその曲を聴く僕の頭の中には、深海をさまようシーラカンスの像がはっきりと浮かんでいた。6500万年前に絶滅したと考えられていた、生きた化石。シーラカンス。
 僕の頭に浮かんだシーラカンスはもちろん空想だけど、彼らの寿命は100年以上あるとのことだから、当時実際に深海を彷徨っていたシーラカンスたちの多くは今でも生きているのだろう。6500万年前から変わらない姿で。