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辺野古の現実、短歌でどう詠む 沖縄の歌人ら、表現めぐる葛藤を議論

 米軍基地の移設工事が辺野古(沖縄県名護市)で続いている。海が埋め立てられてゆく目の前の現実。抗議の思いを短歌に詠んでも、「まるで標語」と批判されることも。どう詠めば、本土の人の心に届くのか? そんな葛藤を抱える沖縄の歌人らが議論した。

 パネルディスカッション「辺野古、表現の多様性を求めて」は、現代短歌社が主催し、那覇市で6月に開かれた。歌人の古堅喜代子さん、浜崎結花さん、俳人の安里琉太さんの沖縄出身3氏と、大阪出身の歌人黒瀬珂瀾(からん)さんが登壇。「塔短歌会」(京都)主宰の吉川宏志さんが司会を務めた。

 聴かないと決めたる耳には届かない音と散りゆくオキナワの声 大城和子

 吉川さんが引用したのは、基地を巡る沖縄と本土の分断を思わせる一首。古堅さんも「沖縄の人々の声がそれ以外の人に届かない失望感」を歌った作例を示す一方、「伝えたい気持ちがはやり、抗議調で直情的になってしまう」歌もあると指摘。読者に標語やスローガンのような印象を与えないよう「身体に届く歌を意識したい」と話した。

 大切じゃないわけじゃない 埋め立ての日取りの決まりゆく珊瑚礁(さんごしょう) 浜崎結花

 吉川さんは、浜崎さんの一首を挙げ「大切だとストレートに言いたくても言えない難しさがにじんでいる」。19歳の浜崎さんは、沖縄の若い歌人の間では、基地への感情を直接ぶつけるような表現は避ける傾向を感じるという。「読者が身構えてしまうと、かえって心に届かないのでは」

 議論を呼んだのは、名護市の歌人、屋良健一郎さんの「解答はじめ。」と題した7首。「□に入る言葉として最も適当なものはどれか。それぞれ(1)か(2)のどちらか一つを必ず選んで、解答用紙の解答欄にマークしなさい」と詞書を添えた。

 問5 遅るるを電話に告げて憎みおり□の起こす渋滞

 (1)工事車両 (2)抗議市民

 読む人の立場によって、まったく異なるイメージが喚起される。「二者択一を押し付けることの暴力性に着目した歌」と黒瀬さん。基地を巡り「容認派」「反対派」とひとくくりにされ、分断されてしまう現状を批評しているという見方だ。

 来場していた歌人の加藤英彦さんは「どちらが正しいか、ではなく対話のチャンスにしていきたい」と話した。(上原佳久)=朝日新聞2019年9月11日掲載