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伴名練さん「なめらかな世界と、その敵」インタビュー 「SFって面白い」を届けたい 

『なめらかな世界と、その敵』(左)と百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』

繊細かつエモーショナル 恋愛小説の趣も

 無数のパラレルワールドを誰もが行き来できるようになった世界で、たった一度きりの青春を生きる少女たちを描く表題作のほか、書き下ろしの中編「ひかりより速く、ゆるやかに」など6編を収めた作品集。10年代にわたって、ぽつりぽつりと発表された短編が一冊にまとまっている。

 顔を出さず、覆面作家として活動している伴名さんは1988年、高知県生まれ。小学2年生のとき、学級文庫として教室の後ろに置かれていた『シュリー号の宇宙漂流記』(今日泊亜蘭〈きょうどまりあらん〉)など、児童向けの叢書(そうしょ)でSFと出会った。

 「タイトルがかっこいいものを読んでいくうちに、SFってものが自分にとって面白いものなんだな、という刷り込みを受けた」。ところが、小中高と、まわりにはSFの話をできる相手がいなかった。「一人で書店の早川書房と東京創元社の棚を読む、みたいな感じでした」

 同じ高知出身で、京都大学のSF研究会に入った書評家の大森望さんを追うようにして、京大へ。在学中に執筆し、「SFの新人賞がないから」と応募した日本ホラー小説大賞で、10年に短編賞を受賞、作家デビューした。

 だが、以後は就職で忙しくなったこともあり、同人誌などに年1~2本のペースでSFの中短編を発表するのみ。しかし、その多くが『年刊日本SF傑作選』(大森望・日下三蔵編、創元SF文庫)に収録され、高い評価を受けていた。

 今回の単行本には、さらに選(え)りすぐった作品ばかりを所収。「いきなり読んだ人にはすごい才能と映ったようですが、上澄みだけになっているので……そういう意味では、書き下ろしが一番不安でした」と話す。

 巻末に置かれた書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」は、高校の修学旅行で同級生と一緒に乗るはずだった新幹線が、ありえない災害に巻き込まれてしまった「僕」が主人公。繊細かつエモーショナルな文章で紡がれる作品は、たとえば新海誠監督のアニメーション映画を想起させる。

 「『君の名は。』ですごいなと思ったのは、SFでは実はものすごく昔からあるプロットを、隕石(いんせき)の衝突で村一つが滅ぶ話にしていたこと。ああ、こうしたら多くの人に広がるエンターテインメントになるんだ、と。だから、影響はゼロではないと思います」

 根底にあるのは、「SFが面白いと思う読者を増やしたい」という思い。「子どもの頃、SFの話をできる相手が少なかったのが、いまだに心残りな部分としてあって。できる限りSFファン以外の人にも届くように、というのを常に考えて書いてます」

 その結果、各編には恋愛小説のような趣も。「ややこしい世界とか設定を書くときに、読者が一番ついてきやすい感情は、誰かに対する思慕なんです」。それは、異性間の恋愛に限らない。単行本に先立ち、「百合(ゆり)」と呼ばれる女性同士の関係性で、SFを書くアンソロジー『アステリズムに花束を』(ハヤカワ文庫JA)にも作品を寄せた。

 「恋愛や結婚以外の結びつきでも、全然いいんじゃないか。ジェンダーに対して強い問題意識があるというよりも、作中の人物を性別で縛りたくない、という気持ちが強くあります」

 単行本『なめらかな世界と、その敵』の印税は電子版を除き、放火事件に遭った京都アニメーションに全額寄付するという。事件が起きたのは、「ひかり~」を書き終えた翌日だった。「週末に自分で考えて、妻に相談したら即答で快諾してくれた。京アニの作品は青春の一部になっている。恩返しがしたいんです」
 本体1700円。(山崎聡)=朝日新聞2019年9月11日掲載