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とよたかずひこさんの絵本「どんどこ ももんちゃん」 「桃太郎」をイメージしたスーパーあかちゃん

文:日下淳子、写真:加藤史人

――ピンク色の表紙が印象的な、乳幼児向けの絵本「ももんちゃん」シリーズは、かわいらしいあかちゃんが、走ってクマを投げ飛ばしたり、友達のヒツジたちをおんぶしたり、ときにはみんなで温泉に入ったりもする。そんな「スーパーあかちゃん」の物語は、2001年から21作品も続いているロングセラー。短くてシンプルな乳幼児向けの絵本の中でも、親子で楽しくほんわかした気分になれる。

 結果的に現在はシリーズものになっていますが、とりあえず最初に作ったのは、『どんどこ ももんちゃん』と『ももんちゃん どすこーい』です。童心社から「あかちゃん向けの絵本を作りませんか」とお話があったのがきっかけでした。でも、あそこからはみなさんご存知の、松谷みよ子さんの『いないいないばあ』という、素晴らしいあかちゃん絵本が出版されています。そこと同じ読者層に向けて創るのは、ちょっとシンドイな、と。そこでぼくは視点を変えて、あまり母子べったりしない、自立したあかちゃんを描くことにしました。あかちゃんがそんなことするわけねえ(笑)、いわば「スーパーあかちゃん」のイメージで、キャラクターを立ち上げたのです。

 よく、「ももんちゃんって、男の子ですか? 女の子ですか?」と聞かれるのですが、ぼくは「桃太郎」のイメージで描いてましたから、はじめはびっくりしましたね。試しに「どちらだと思いますか?」と聞いてみると、男女半々ぐらいで答えが返ってくる。多分、我が子に重ね合わせるのでしょうね。ああそうか、そうするとあえて男の子だって言わなくてもいいんだと思いました。そもそも、ももんちゃんは、人間かどうかもあやふやなんですけどね(笑)。

――ももんちゃんの物語には、友達として、サボテンや金魚、ヒツジやおばけが出てくる。あかちゃん絵本にあまり馴染みのないキャラクターもいて、そこがまたおもしろい。

 ももんちゃんの相方のキャラクターも、現実感がない方がいいと思い、まずサボテンを登場させました。サボテンは砂漠にいますから、次はちょっと水気がほしいなと思って、じゃあ金魚を出そう。みんなを並べて描いていったら、空の部分が寂しくなる。それじゃこの空白を埋めるのはおばけだろう、そんな感じですんなりとキャラクターがかたまりました。

『ごくらく ももんちゃん』(童心社)
『ごくらく ももんちゃん』(童心社)

 サボテンなんかは、あかちゃんはまだ目にしたことはないんだろうけれど、そもそもあかちゃん絵本は、大人が読み聞かせをしてあげないと本人には伝わらない。それだったら、読んであげる大人が作品世界で遊んでくれれば、その楽しさは乳幼児にも届くだろうという願いを込めて作っているんです。

 読者カードで「子どもは、見たこともないのに、サボテンが痛いってどうしてわかったんだろう?」というのがあったんですけれど、それはぼくの絵の力で伝わったんだろうと、勝手に解釈しています(笑)。あかちゃんだって、ちゃんと想像できるんです。サボテンというのはトゲトゲがあって、触ると痛いんだなって。すごいですよね。

『こちょこちょ ももんちゃん』(童心社)
『こちょこちょ ももんちゃん』(童心社)

――ももんちゃんシリーズは、ももんちゃんがいろいろなことを体験する中で、最後にお母さんのもとにかけよっていくシーンが多く描かれている。「なんでもできるあかちゃん」も、心のよりどころはお母さん?と思いきや、実は読み手によっていろいろな解釈があるのだという。

 ももんちゃんのシリーズは、「お母さん」という言葉を極力使っていません。『どんどこ ももんちゃん』で、絵本の最後に、ももんちゃんが大人に飛び込んでいくというシーンにも「お母さん」とは書いていません。

 最後の場面は、「お母さんのところに帰ってきてよかったね」という見方が一般的でしょう。もちろん、それはそれでいい。ただ、あまり母子べったりの世界にしたくないという当方の思いもあって、あそこはおばあちゃんでもいいし、保育園の先生でもいいし、信頼できる大人だったら誰でもいいということです。

『どんどこ ももんちゃん』(童心社)
『どんどこ ももんちゃん』(童心社)

――ももんちゃんの絵本は、アジアをはじめとする世界各地に翻訳本が広まっている。とよたさんが講演に呼ばれることも多く、保育園や小学校、大人向けまで、さまざまな場所で読み聞かせや講演会を行っている。

 各地で講演をしたり、読み聞かせに行ったりするのは、とてもおもしろいですよ。絵本作家って、一日中人としゃべらないで、部屋にこもって絵を描くような仕事なんです。だから講演に行ったときに、いま生きている子どもの息づかい、肌ざわりを知っておきたい、そんな気持ちがあります。

 作家の独りよがりで描いていたらダメだと思うんです。子どもに迎合するわけではありませんが、絵本を読んでいるとき、子どもがおいてけぼりをくうような作品になっていないか、常に考えます。絵本になる前のダミー本を作りながら、必ず音読するし、何度も推敲します。制作中に頭がこんがらがったら、なるべくシンプルに戻して、メッセージ性も極力排除するようにしています。でもこれは、あくまでぼくの作り方で、絵本はいろんなものがあっていいんですよ。

 「この絵本で子どもに伝えたいこと」を聞かれるのが、一番つらいですね(笑)。中国版のももんちゃんが発刊されて、何度か中国に招待されて出かけていきましたが、講演後の質問タイムに次のような問いをよく受けます。「とよたさんは、この絵本で一体何を伝えたいのか?」って。特にテーマはないんですって言うと、納得いかない顔されますね(笑)。でもあかちゃん絵本って、親と子の間にあってはじめて成立するものなんですよ。その短い貴重な時間を共有し合うことが、一番大切なことだと思うんです。絵本の世界では大事件が起こらなくていい。奇をてらわず、小さな人たちの日常に安心感を差し上げるような絵本作りを目指しています。そして同時に「もういっかい!」と言ってもらえるような、繰り返し読まれる絵本を創りたいです。

 以前、大学の講演でももんちゃんを読んだら、感想レポートの中に「お母さんに、この本はあなたが小さい頃、読み聞かせしてたのよって言われてびっくりした」というのがありました。これは嬉しかったですね。子どもは何を読んでもらったか、まったく覚えてないけれど、お母さんは覚えている。長く読み継がれていれば、そういう出会いがあるんだって思いましたね。あるときの時流に乗って爆発的に売れる本よりも、地味でいいから、細く長く親から子へ読み継がれていく本を、ぼくは描いていきたいと思っています。