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芦沢央さん「カインは言わなかった」インタビュー 表現者たちの苦悩を自らの体験に重ねて 

 ミステリーの気鋭、芦沢央(よう)さんが新刊『カインは言わなかった』(文芸春秋)を出した。コンテンポラリーダンスを題材に描いた表現者たちの苦悩は、自らの体験とも重なり合う。

 弟を手にかけた旧約聖書の説話を基にした「カイン」の公演初日を控え、主役のダンサーが姿を消した。冒頭の殺害場面はいつ、誰が誰を殺したものなのか。誰もが追い詰められ、殺害の動機を抱える。

 作中の指導者、誉田は東日本大震災で妻を亡くした。津波を表現する公演が「悲痛な鎮魂」として高く評価される。芦沢さんも、産院での子どもの取り換えを書いた『貘(ばく)の耳たぶ』を出版した際、似た体験をした。「2児の母親であることを全面に押し出された。もし男性が同じ作品を書いたとして、同じ反応になっただろうか。ざわざわする一方で、当事者か否かが解釈に影響を及ぼすのは、私自身にもある感覚だった」

 密接するあまりゆがむ人間関係を描きたいと、「正解はわからなくてもついていくしかない」師弟関係に着目。コンテンポラリーダンスを題材に選んだ。言葉がない中、全身を使った細かな表現をしなければ伝わらない。目線一つで観客に見える景色が変わる。誉田は「おまえが何を感じているのか、何を見ているのかなんて、どうだっていいんだよ」と指導する。「リアルな感情と、その表現とは直接はつながらない。そのことは、当事者性のもやもやにもつながる気がした」(興野優平)=朝日新聞2019年9月18日掲載