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映画「楽園」で共演した綾野剛さん&杉咲花さん 最終共演者である「現場」で生まれた感情を大切に

文:根津香菜子、写真:斉藤順子

――本作で共演されたお互いの印象を教えて下さい。

綾野剛(以下、綾野): 僕が今でも覚えているのは、日本アカデミー賞(2017年)の授賞式で杉咲さんにご挨拶をした時に「いつか何かやりたいね。一緒にやるならどんなのがいいかな?」って聞いたら「誘拐される話がいいです」って言ったんです。その時から、自分と人を活かす能力が非常に高い方だと思っていましたし、尊敬という思いもありました。今回の現場に入ってからも、繊細に、時に大胆に紡という人物をちゃんと見つめている姿がとても魅力的でした。

杉咲花(以下、杉咲): 私も綾野さんの出演された作品は観ていましたし、ずっと憧れていた方なので、自分ではまだ共演させていただくのは早いかも、と思うタイミングで、この作品をご一緒させていただくことが出来てうれしかったです。でも、今回綾野さんが演じたのは追いつめられる役どころだったので、お話とかあまりできないだろうなと思っていたのですが、クランクインの日に「一緒に話そうよ」と声をかけてくださったことが私には意外でした。ものすごく役に入り込む方なのかなと勝手に思っていたので、そのイメージとは違って「なんでこんな難しい役なのに普通にしていられるのだろう?」と思っていました(笑)。

スタイリスト:申谷弘美、ヘアメイク:石邑麻由
スタイリスト:申谷弘美、ヘアメイク:石邑麻由

綾野:全然役に入り込まないで、杉咲さんが出ていたドラマの感想ばっかり話していたね (笑)。

杉咲:私自身、今までは役の感情をずっと保っている方が楽かなと思っていたのですが、今回の「楽園」の現場で初めて「カメラが回っていないときは普通でいよう」と思い、撮影に臨みました。でも、役に入ったり離れたりを繰り返すことはやっぱりしんどいことだったので、そんな綾野さんを見て、改めてすごいなと勉強になりました。

――綾野さんは、撮影が始まった中盤あたりから原作を読み始めて、現場にはお守り代わりに持っていかれたと伺いましたが、その理由を教えてください。

綾野:僕は基本的に原作がある作品に出演する時は読まないです。台本って大まかな設計図として書かれているけど、小説は事細かに書いてあって、そっちに引っ張られることがあるんです。「小説ではこういう感情なんで」というものを持ち込んでしまうと、人物がどうしてもキャラクターになってしまう。もちろん、漫画原作はルックスや髪型、服装がちゃんと描かれているので、そのキャラクターに心情を乗せていきながら人物化していくことはとても大事なことだと思うんですけど、本作の場合、豪士を生きていて「これは正しいのか?」という自分自身の正義を貫こうとした時に、その感情が果たして合っているか、合っていないかの「取説」として持っておけばいい、だからお守りにして持っておこうと思ったんです。

© 2019映画「楽園」製作委員会
© 2019映画「楽園」製作委員会

――杉咲さんが演じた紡は、原作よりも大幅に手を加え、物語をつなぐキーパーソンになっていますね。

杉咲: 私は台本を頂いてから原作も読んでみたのですが「青田Y字路」を途中くらいまで読んだら台本とは紡の印象が違ったので、これ以上読むのをやめておこうと思いました。台本から受けるものを大事にしたかったんです。

――本作では、集団心理の狂気や限界集落での村八分など、胸をえぐられるような問題が描かれていましたが、ストーリーが進むにつれて、お二人の精神状態もかなりキツかったのでは? 役作りにあたっては、どう気持ちを作っていったのですか?

杉咲:私が演じた紡という役は、理解できそうですごく遠いところにあるという感じで、役作りというのも正直、分からなかったです。台本を読んでも分からない抽象的なセリフやシーンも多かったので、最初はすごく考えたのですが、考えれば考えるほど分からなくなってしまって。そんな時、ふと紡のセリフに「分からなくたっていい」と言っていたことを思い出したんです。今までは、自分が演じる役を分からないまま現場に行ってはいけないと思っていたのですが、本作では、現場に行って感じたものを一番大事にしたいと思って、初めて分からないまま行ってみたんです。ラストで紡が看板を投げるシーンは、台本を読んだ時「出来るのかな?」と不安だったのですが、現場に行ってみたら自分でも想像のつかない気持ちになったので、その感情のままに演じました。そんなことは初めてだったので、不思議な体験でした。

スタイリスト:山本マナ、ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:山本マナ、ヘアメイク:ナライユミ

綾野:僕は最終共演者である「現場」がどういった存在をしているのかを、なるべくまっさらな状態で入ってみたいという気持ちと、その土地が持っている匂いが醸し出すものが、この作品では重要だと思ったので、実際に現場に立ち、そこで豪士として芽生えた感情が全てだと思いました。映画というのは、原作と僕が作るわけではなく、今回で言うと、杉咲さんと僕が作らなければいけない物語だと思ったので、なるべく書かれているものに自分がコントロールされないためにも、杉咲花という人と、時に鏡のように照らし合わせて、ちゃんと向き合えるように演じました。

――杉咲さんは、長い間、罪の意識に苛まれるという役どころでしたが、普段から撮影が終わってホッとした時に写真集を見ているそうですね。

杉咲:色々な景色やキレイなものをもっと見てみたいと思っているので、移動中や家では写真集を見ることが多いです。特に、写真家の奥山由之さんや、花代(はなよ)さんの作品が好きです。奥山さんはファッションや景色、色々な美しいものを撮っていらっしゃって、花代さんには、点子(てんこ)さんという娘さんがいて、子供の頃からずっと撮りためている成長の記録みたいな写真集があります。20歳くらいの時に撮ったヌードもあって、そういうのも美しいなと思います。あとは詩集も好きです。写真でも言葉でも、キラキラしたものを見ると元気が出ます。

――綾野さんは豪士を生ききった今、どんな作品を読みたいですか?

綾野: 吉田修一作品を一周してみるのも面白いかなと思います。基本的に吉田さんの作品には「僕」という一人称があまり書かれていないけど、主人公は皆、決して満帆ではなく、何か足りていない、欠如している部分が一貫してあるんです。先日、そのことをご本人に伝えたら「それは意識していなかった」とおっしゃっていたんですが、物語が変わっているだけで、吉田さんの中で一本通っていることなんだろうなと思ったんです。そうすると、物語を通して原作者の脳内が垣間見える瞬間があるんですよ。「この人はどういう人生を生きてきたんだろう」という、吉田さんの歴史が見えてくるんじゃないかなと思っています。

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