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「生態写真集 キタリス」 野生の姿、愛らしさにガツン

『生態写真集 キタリス』

 めくったとたん、野生のキタリスの愛らしさにガツンとやられる。著者は『キタキツネ物語』や『子ぎつねヘレン』など映画でもその名を知られた存在。獣医として長年、北海道で野生の「患者」と付き合ってきた。タイトルにある「生態写真」という言葉にはこだわりがある。自然の中で生き抜く姿を撮影しているからだ。私たち読者は実は緑豊かな森を見ている。降り積もる雪の白さを見ている。自然そのものの生き様を、キタリスの姿を追うことで同時に見ているのである。「カワイイ」だけを切り取った写真集ではない。
 文章もいい。多すぎず、少なすぎず。私が心打たれたのは、自分が見ているのは本当に自然の姿なのかと自問するところだ。「誤解かもしれない」と。著者はむろん豊富な経験を持ち、野生動物をその目で観察してきた。しかし自然の姿はあまりに奥が深い。それでも「自然」の姿の尻尾をつかみたい。半世紀を超え、探求してきた著者は、まさに自然体の老哲学者のようでもある。=朝日新聞2019年10月19日掲載