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竹原あき子さん「袖が語れば」インタビュー 平安貴族の衣装から「モナリザ」の袖まで

竹原あき子さん

 初めはフランス政府給費留学生として訪れたパリと東京を往還すること半世紀、今ではセーヌ川中州のサンルイ島に家を持ち、1年の3分の1はそちらで暮らしている。

 いわく、フランスは「自己主張しなければ生活できない」国であり、デモは日常的に行われ、三色旗が示す自由、平等、友愛を失えば危ういと思っている。階級社会でエリート主義ではあるが、今もギリシャ哲学が重視され、図書館は常に学生でいっぱい、「歴史を知らなければ始まらない」ことになっている――。

 「個人の国」と、日本という「世間の国」を行き来して疲れませんか? そう尋ねると、帰国した途端ホッとすると笑いながら、「そろそろ日本もお上頼みはやめませんか」。

 キヤノンカメラのデザイン課が振り出しで、デザインやパリに関する著書は数多い。日仏両国の言葉で併記した本書では、平安貴族の衣装から現代の背広まで、袖の変遷を豊富な逸話と共にたどった。ルーブル美術館の至宝「モナリザ」の袖にも話は及ぶ。長年の文献渉猟と旅の成果で、とりわけ昔の日本人はかくも袖にこだわってきたかと感嘆させる。

 晴れの儀式の際、御簾(みす)の下から色鮮やかな裾と袖だけをのぞかせる「打出(うちいで)」、重ねた袖を少しずつずらして彩る「襲(かさね)の色」――日本の色彩文化はどこか巧妙な知的遊戯にあふれているとは本書にある言葉だが、収録したカラー図版の数々を見てもそう思う。十二単(ひとえ)をするりと脱げば着ていた時の形で残る、これを「空蟬(うつせみ)」というが、その美しさ、呼び名の妙。

 袖と言えば和歌、万葉集はじめ古典からの引用も多い。「梅の花匂ひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ」(藤原定家)。袖はモノを言い、心を謳(うた)う、と文中にある。

 次のテーマは、モダンとは何だったか。バウハウスを手がかりに考えている。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2019年10月19日掲載