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海外赴任時の読書に多くの発見 東海東京フィナンシャル・ホールディングス代表取締役社長・石田建昭さんの本棚

今日的な問題に重ねると新たな捉え方ができる

 前職の銀行時代は20年以上を海外で過ごしました。イギリス駐在時は周りにオックスフォードやケンブリッジを出た議論好きの教養人が多く、「日本とは、日本人とは」ということをたびたび突きつけられました。かといって、そんなに肩肘張って考えなくてもと思い、司馬遼太郎の『この国のかたち』を日本から送ってもらいました。日本人の思想や行動の源流はどこにあるのか、司馬さんの考察一つひとつがおもしろく、いつ読んでも発見のある本です。つい最近も読み返しました。地政学的にも経済的にも難しい問題を抱える日本を見つめ直したいとの思いからです。「灰色のサイ」「部屋の中の象」という言葉もありますが、今の日本には、将来大きな問題になることが見えているのに、手がつけられていない課題がたくさんあります。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで言われた国がなぜそうなったのか。リスクとどう向き合うべきか。今の時代に重ねて読むと、また新たな捉え方ができる。若い人や政治家にも読んでほしい全6巻です。

 イギリス勤務は2度経験し、最初に赴任した90年代にちょうどEC市場統合がありました。矛盾だらけの統合で、その感想を現地の幹部に話すと、「戦争を防ぐには統合しかない」と、思いもよらぬ答えが返ってきました。この時ヨーロッパ視点の戦史に意外と疎い自分に気がつき、チャーチルの著書『第二次世界大戦』を読みました。欧州諸国の微妙な関係性がよくわかる大作です。日本の真珠湾攻撃がなくアメリカの参戦がなければ、ヨーロッパ戦線はドイツの勝利に終わったかも……というような、今に続くヨーロッパの本音を知ることもできました。現下ブレグジットに揺れるイギリスに対し、フランスなどのEU加盟国がなぜあれほど冷たいのか、旧ソ連の対日参戦と北方領土領有について、なぜロシアがあれほど強気なのか。そうした今日的な問題についても本書を通して理解できる。チャーチルの緻密な記録を読むのに根気がいりましたが、それだけ発見がありました。

 最初の海外勤務はタイのバンコクで、現地銀行と組んでジョイントベンチャーの立ち上げにあたりました。ところが翌年にオイルショックがあり、事業の存続に苦しみました。バブル期にはロサンゼルスに赴任。当時のブームもあって現地銀行の買収を進めましたが、翌年就任したレーガン大統領が猛烈な金融引き締め政策を開始。一気に進んだ不動産不況のあおりで、買収した銀行は倒産寸前に追い込まれました。2度目のロンドン勤務では、ポンド危機に遭遇。帰国すると日本の金融危機が待っていました。このようにいくつもの金融危機を経験して痛感したのは、マクロ的な視野の重要性です。『熱狂、恐慌、崩壊 金融危機の歴史』は、バブル発生と崩壊を繰り返す金融史を振り返り、金融危機が国際的に伝染していくプロセスなどをマクロ視点で俯瞰しています。金融の教科書といえる本で、市場関係者は必読だと思います。

予測不能の時代にこそ備えたい「反脆さ」

 銀行時代は現地法人のトップも務めましたが、いずれもグループの一員という位置づけで、経営の独立性はありませんでした。縁あって当社を率いることになり、『ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則』を手に取りました。企業にとって核となる概念がいかに大切か。当社の場合は「誠実さをもってお客様の満足と信頼につなげる」という概念がいかに組織の成長を支えてきたか。飛躍を遂げた企業と、成長を維持できなかった企業の比較事例を通して、リーダーが果たすべき役割を再認識できた一冊です。

 最後は、『反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』を紹介します。本書は、一貫性や頑健さだけでは予測不能の事態に対処できないと説きます。そして、ランダム性や逆境をバネにする「反脆さ」の強みについて、金融、科学技術、人間関係、意思決定など、様々な角度から検証しています。我々の業界では「テールリスク」「ブラックスワン」といった言葉を使いますが、つまり変動の激しい金融市場においては、リーマン・ショックのようなことがいつ起こるかわからない。だからこそ、柳の木のように柔軟な「反脆さ」を個人も組織も備えなければと思います。著者のタレブ氏は日本社会に対して厳しい目を持ち、日本の「恥の文化」が、多様性を認めない、リスクを冒さない、失敗を隠す、といったことにつながっている、などと語っています。確かに真理をついているなと思います。私は役員研修会で3冊の本を推薦するようにしているのですが、本書もすすめました。読書はビジネス面だけでなく、人格形成においても必須。読書なくして成長はないと思っています。 (談)

石田建昭さんの経営論

東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、日本のものづくりの中心地である中部地区に確かな営業基盤を持つ総合金融グループ。中核子会社である東海東京証券の活動を軸に、独自のビジネスモデルを構築しています。

地銀と連携し独自の道を開く

 東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、2017年4月に5カ年の経営計画「New Age’s,Flag Bearer5〜新時代の旗手〜」を発表。大手証券やメガバンク系証券とは異なる「第3の極」として、独自のビジネスモデルの構築を目指すと宣言した。なかでも力を入れているのが、地方銀行との連携だ。

 「高齢化、都市への人口流出、メガバンクの地方進出など、地方銀行を取り巻く環境は厳しさを増しています。巨額の投資が必要なフィンテックへの対応も地方銀行を悩ませています。一方当社は、東海東京証券を始めとする東海東京フィナンシャル・グループの営業基盤の拡大に取り組んでいます。提携先の地方銀行の地盤と当社グループの商品や金融インフラが補完し合うことで、マーケットの開拓を図っていきたいと考えています」と石田建昭社長。

 これまでに山口フィナンシャルグループ、横浜銀行、西日本フィナンシャルホールディングス、池田泉州ホールディングス、ほくほくフィナンシャルグループ、栃木銀行との合弁証券会社を設立。預かり資産は6社合計で約1兆5,000億円(2018年9月末現在)と、中堅証券1社に匹敵する規模に成長している。2019年6月には岐阜の十六銀行との合弁証券が7社目として開業した。

 「さらに、地方銀行との合弁事業で培ったノウハウを活用し、種々の金融商品やシステム、社員教育などのサービスをプラットフォームとして同業証券会社へ提供するビジネスを本格化。提供先の証券会社は現在60社近くにのぼります」

富裕層向けサロンがオープン

 金融ニーズが多様化する中、2015年に富裕層向けブランド「Orque d’or(オルクドール)」がスタート。2019年4月には日本橋髙島屋三井ビルディングの最上階に「オルクドール・サロン東京」がオープンした。2017年には、働き盛りの資産形成層に向けライフステージに合った商品を提案する来店型の「MONEQUE(マニーク)」も始まった。東海東京証券の女性社員が中心になって運営する「乙女のお財布」という、働く女性の応援プロジェクトなども展開している。

 「女性のお客様は保険への関心が高いので、医療保険、がん保険、介護保険など、多岐にわたる商品について知見を深めています。もちろん保険に限らず、資産形成や相続、住宅ローンなど、セグメントごとに先端の商品、金融サービスをそろえ、きめ細かい情報とともに提供しています」

 今後は、フィンテックを含めてプラットフォームビジネスのレベルを上げるとともに、自由度の高い資産運用の提案などを通して幅広いニーズに応えていく、と石田社長。リーダーに必要な資質については、次の4点を挙げた。

 「リーダーは信頼に足る人格でなければなりません。私が心がけているのは、自分の金に執着しない。頼まれたら断らない。すると自然に人のネットワークが広がり、運が向いてくる。そしてもちろん実績。人格、人のネットワーク、運、実績。この4点が必要ではないかと思います」

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