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舞台「お勢、断行」に出演の上白石萌歌さん 少女から大人へ、「善」から「悪」への移ろいを丁寧に演じたい

文:根津香菜子、写真:篠塚ようこ

倉持作品には完璧な「真っ白」の人がいない

――先ほどまで本作のビジュアル撮影が行われていましたが、倉持作品への出演が決まった時の感想を教えてください。

 倉持さんは、姉(上白石萌音さん)が出演していた「火星の二人」を観に行ったことがきっかけで、とても興味のある演出家のお一人でした。その舞台は2回観に行ったんですよ。1回目はたくさんの疑問を抱えて家に帰ってきたので、姉に台本を読ませてもらって、一度自分の中で整理してからもう1回観に行きました。あと、2年くらい前に上演された「鎌塚氏、腹におさめる」は振り切ったコメディなんですが、文学的な言葉遊びの奇妙さや、見終わった後、いい意味で変な後味が残る作品ですごくおもしろかったです。その頃から、いつか倉持さんの作品に出演したいと思っていたので、今回のお話をいただいた時は嬉しかったですね。

――本作のリリースコメントで「倉持さんの言葉には魔法がある」とおっしゃっていましたが、具体的にはどんなところでしょうか。

 コミカルなのにすごく冷酷なワードが散らばっていて、今回の舞台もそうなると思うんですが、どの登場人物も怪しく見えてきちゃうんです。完璧な「真っ白」の人がいないし、メインキャスト以外の人たちにも色々な顔があって、冷たさも面白さもどっちもあるように思えるんですよ。そういう言葉遊びが役を生かしてくれるんだろうなって思います。そんな倉持さんの言葉に早く触れたいですね。

――これから本作の戯曲が出来上がるそうですが、今の段階で今回の役をつかむ手掛かりはどんなところに見出すことができそうですか?

 今、本作の元になっている「お勢登場」が収録されている江戸川乱歩の短編集を読み始めたところです。乱歩作品は初めて読んだのですが、内容が難しくて「これを読破できるのかな?」って思いました。作中では残虐なことばかり起こるし、人が何人も死んでいるから、中々するするとは読めないですよね。このヘビーな題材を、倉持さんがどう調理して、どんなコメディ色がつくのか楽しみです。

 今はまだ題材や役どころの情報が少ないんですが、登場人物の善と悪がはっきりと分かれていて、私が演じるのは、最初は割と「善」で無垢な少女が、色々な事件に巻き込まれていくうちに「白」から別の色に染まっていくんです。今回の作品では、復讐のために3人が手を組むんですが、その過程で今までに味わったことのない高揚感や、見たことのない世界に入り込んだ瞬間に、私が演じる娘の目の色が変わりそうな予感がしているんです。「善」から「悪」へと変わっていく移ろいを、繊細に丁寧に演じていけたらと思っています。

少女から大人へ、境目を超えていきたい

――本作の公演初日(2020年2月28日)に20歳の誕生日を迎えられますね! これまではピュアな少女役、といった印象が強いのですが、今回の舞台で新境地を見せてくれそうで楽しみです。

 今までは、黒と白で言うと「黒」の方を演じたことがなかったので、今回のような役はすごく新鮮です。私が演じる資産家の娘は、復讐に関わっていくうちに、段々と偽善者のようになっていくと思うんです。少女から大人への移ろいという意味では、今の私の年齢にぴったりの役だと思いますし、そういう役を、すてきなキャストやスタッフのみなさんと境目を超えていけるのが楽しみです。

――本作では、お勢という圧倒的な悪女がいますが、上白石さんが演じる娘もまた、自らの手をほとんど汚すことなく後妻を追いつめるという、ある意味、お勢に引けを取らない悪女だとうかがいました。上白石さんにとって「悪い女」とは、どんな女性だと思いますか? また、ご自身の中に「悪女」な部分はありますか?

 う~ん……、難しい質問ですね(笑)。表面上はきれいに取り繕っているけど、したたかで毒々しい感情が心の奥にある人かな。見た目はすごく優しそうな人が、実は怖かったりするじゃないですか。そういう裏切りの部分をはっきり持っている人が悪い女なのかなと思います。でも「悪女」ってかっこいいなとも思うんです。多分「悪」に染まるには、すごく勇気がいることだと思うんです。私にはまだその勇気がないですね。

――江戸川乱歩の作品を読むのは今回が初めてとのことですが、普段はどんな本がお好きですか?

 幼い頃から、本好きな両親に口酸っぱく「本を読みなさい」と言われていました。家にはたくさん本があって、姉も読書好きなので、お互いの部屋にある本棚から貸し借りをすることもあります。私は主に、現代文学や女性作家さんの本をたくさん読んでいます。吉本ばななさんは高校生の頃から好きで、特に『デッドエンドの思い出』と言う短編小説は、秋になると読みたくなります。内容も秋のお話が多いんですが、落ち葉が広がっているような表紙で、それを眺めるだけでも幸せな気持ちになれるし、情景が目に浮かぶ感じが好きなんですよ。

――これから読んでみたい、気になるジャンルはありますか?

 今までは現代文学ばかり読んでいたんですけど、今回の乱歩のように、読み進めるのが簡単ではないような作品にも触れていけたらと思っています。あとは「令和」という年号が万葉集から出てきた言葉と知って、とても興味があるんです。巷でも万葉集ブームがあるらしく、古典文学を読みやすいように改訳したものも出ているそうなので、ぜひ読んでみたいです。

――これから稽古が始まりますが、意気込みを聞かせてください。

 今は早く台本が読みたいです(笑)。世田谷パブリックシアターは大好きな劇場なので、その場に立てることもとても嬉しいです。あとは前作の資料映像も見て、イメージトレーニングを今のうちにたくさんしておきたいですね。この役と一緒に成長して「正義って何なんだろう」と考える時間にしたいと思っています。