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福富優樹・サヌキナオヤ「CONFUSED!」 それでも前を向く、人々の小さな営み

 低迷中の野球チーム・タイニーバーズを擁する架空の町・グリーンバーグ。本作はここで暮らす人々の小さな営みを描いた8編からなる。原作と作画は気鋭の音楽家とイラストレーターだ。それぞれが独立した話だが、各話が有機的に絡み合っており、共同体としての息遣いが感じられる。ヤードセールをはじめ、ところどころに登場する時流から取り残されたことやものがまだら模様に現役な感じも、良き日のアメリカ郊外という感じで堪(たま)らない。

 ラジオDJの親父(おやじ)は聴取率をあげるため起死回生のアイデアを閃(ひらめ)き、ピンチのボウリング場はある動画がきっかけで危機を切り抜ける。変化を受け入れられない人、その場限りのお祭り騒ぎに熱狂する人、町に溶け込みたいと努力する人――。登場人物たちはみな何かを愛し、いま居る場所で懸命に生きている。しかし、何かをしたいと思ったとき、すぐに的確な手段や方法を導き出せる訳ではない。そこから生じる混乱や孤独感、それでも前を向く強さが愛(いと)おしい。特に子供たちの健気(けなげ)さには心打たれた。

 ある雪の夜、町はお祝いムード一色に染まる。この震えるほど美しいラスト数ページをぜひ堪能してほしい。=朝日新聞2019年11月2日掲載