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田中明彦『新しい「中世」』他 岩間陽子さんが選ぶ平成のベスト本5冊

 (1)田中明彦著『新しい「中世」』(日本経済新聞社、1996年刊) 冷戦終結直後に、ポスト冷戦の世界をとらえる新しい枠組みを提示した。当時はEUの未来がバラ色に思え、世界がどんどん「新中世圏」に移行していくように思えた。30年たって世界は様変わりしたが、提示された枠組みは、いまだに古くなっていない。ナショナリズムの再来、今後の中国、インドなどの台頭を考えるにも役立つ。

 (2)J・K・ローリング著『ハリー・ポッターと賢者の石』(松岡佑子訳、静山社、1999年刊) 世界中の子供たちが、ほぼ同時に共通の体験をした稀有(けう)な作品。今振り返ると、子供たちの楽しみがゲームに移る時代の、人類史上最後の紙の本の世界的ベストセラーだったかも。

 (3)磯田道史著『武士の家計簿』(新潮新書、2003年刊) 次代の司馬遼太郎になれるとしたらこの人だが、その彼がブレークした作品。歴史に対する一般の人の固定観念を打ち破って、楽しさを再発見させてくれた功績大。

 (4)マイケル・ピルズベリー著『China 2049』(野中香方子〈きょうこ〉訳、日経BP社、2015年刊) あとから振り返ると、米中冷戦の幕開けを告げる作品だったかも。

 (5)篠田節子著『女たちのジハード』(集英社、1997年刊) どんなに笛吹けど、女たちが輝けない日本が続いたのもまた平成。女たちが背負っているものの重さと同時に、彼女たちのしたたかさを描いてみせた名作。=朝日新聞2019年11月6日掲載