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エトガル・ケレットさん「銀河の果ての落とし穴」インタビュー 被害者意識、ユーモアであぶり出す

エトガル・ケレットさん

 イスラエルの作家、エトガル・ケレットさんが短編集『銀河の果ての落とし穴』(広岡杏子訳、河出書房新社)の刊行にあわせて来日した。シリアスな現実を、奇想に富んだ設定や比喩でユーモアたっぷりに描く。その背景には母国の困難な歴史がある。

 表題作は「ホロコースト記念日」に車いすの母を脱出ゲームに連れて行きたいという男からのメールで始まる。ゲームの担当者は、記念日は営業を休み、祈りたい、別の日に案内したいと返信するが、男はホロコーストで母がいかに苦しんだかを訴える。被害者意識が主題だ。

 1967年生まれのケレットさんは、両親がともにホロコーストの生存者。「もし被害者意識のオリンピックをしたら、最後まで残るのはユダヤ人とパレスチナ人でしょう。互いに自分たちが一番苦しんだと言い張る。そのとき他者の苦痛には目を向けない。それではだめです。暴力の連鎖を止めるには自分たちを被害者だと見るのをやめなければいけない」

 創作を始めたのは義務兵役中の19歳、親友の自殺がきっかけだった。屋上に立つ男を見かける父子を描いた「とっとと飛べ」など、死を扱う作品が多い。エッセー集『あの素晴らしき七年』(秋元孝文訳、新潮クレスト・ブックス)でも空襲警報が鳴る日常をささやかな工夫で笑いに変える場面がある。「イスラエルは空中に死が漂っている。物語を書くことは紛争や衝突について書くことです。暴力や死から、人間の本質があぶり出されてくるから」(中村真理子)=朝日新聞2019年11月13日掲載