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逢坂剛さん「百舌シリーズ」完結インタビュー 変わる時代と「悪」を映した

逢坂剛さん=2019年10月8日、東京都千代田区、興野優平撮影

38年計8冊 禁煙・携帯登場…「一種の自分史」

 最新刊『百舌落とし』(集英社)では、大物政治家がまぶたを縫い合わされた状態で殺された。そばには百舌の羽根。かつて警視庁捜査1課に身を置いた私立探偵、大杉良太は、公安畑出身で、いまは公共安全局に出向中のヒロイン、倉木美希や、不良から更生し、生活経済特捜隊の刑事になった娘のめぐみらと事件を追う。「婦人警官は婦人警官らしく、路上にチョークで線でも引いていればいいのだ」と美希をうとましく思っていたのもいまは昔、互いに頼れる相棒だ。

 シリーズ名の「百舌」とはなにか。様々ないきさつから「百舌」となった犯罪者たちは、ほとんどが死をもってその罪をあがなう。「いつの時代にもある、悪の象徴みたいに、いつのころからかなったよね」と逢坂さんはいう。

 シリーズ当初、たばこをふかしていた大杉はいつしか禁煙。携帯電話の利便性に気づき、パソコンで慣れないメールを打つ。「実に露骨というか、私が禁煙すると同時に大杉も禁煙した。自分がモデルになっているわけではないけれども、書いた当時の自分を書きとめるという一種の自分史になっているし、風俗資料でもある」

 作中での社会情勢の変化は、実社会と重なり合う。前日譚(たん)『裏切りの日日』、1作目『百舌の叫ぶ夜』では、公安警察がクローズアップされ、爆弾テロ事件が題材だった。いまでこそ取り上げられることが多い公安だが、「当時はほとんど知られていなかった」。2作目では北朝鮮のスパイ工作を扱い、最新刊では防衛装備移転三原則を背景に陰謀がうごめく。「時代の変化がわかるのは面白い。それだけでも書いた意味があると思う。文筆家の一つの使命ではないか」

 それができたのは、本の街・神保町に眠る宝の山があったからだ。古書店をめぐるのが逢坂さんの日課。「本のタイトルに、はっと目を引くようなオーラが出ているものがある」という。まったく関係ないように思われた本が、じつは執筆のテーマに関係したという経験を何度もした。二束三文で売られていた中に、警察の内部資料を見つけたことも。「人の知らない資料を見つけたときは心躍る。ほしい資料が集まれば、70%ぐらい小説は書けたようなもの」

 「最初は、シリーズになるなんて夢にも思っていなかった」と逢坂さん。今回、版元は完結とうたうが、本当にそうなのか。本人は笑って答えなかったが、『百舌落とし』の次の一節が気にかかる。「〈百舌〉の怨念は決して死んではいない、という気がする。(中略)たとえ死んでも、いつかは生まれ変わる存在、それが〈百舌〉なのだ」(興野優平)=朝日新聞2019年11月13日掲載