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大竹永介さん「出版文化と編集者の仕事」インタビュー 出版界への警鐘をちりばめた

大竹永介さん

 電車で本を読んでいる人をあまり見かけなくなった。子どもがひざの上で本を広げていようものなら、私ならご褒美を上げたい気分になる。

 うんわかるわかる、と思う世代であれば、編集者の仕事に無縁な人でも、本書に共感するところが多いのではないか。携帯電話もインターネットもなかった頃に、良くも悪くも徒弟制度で鍛えられた世代である。

 「作家との間でも編集者同士でも今はつきあいが希薄になって、よく言えばクール、線を引くというか、互いに深入りしない。どうなんだろう、と思わないでもないですね」

 講談社に入ったのが1973年、少女漫画や児童書を長く担当し、役員も務めた。作家との濃密なつきあいは本書に詳しい。その間、自ら発案して取り組んだ一冊に井上ひさしの『子どもにつたえる日本国憲法』(2006年)がある。憲法に関する本としては斬新な企画だった。依頼した井上から快諾を得たが、「遅筆と締め切りの悲劇」の幕が開く。

 象徴、権利、自由、そうした言葉をわかりやすく、どう「翻訳」できるか。井上はそこまで考えていた。「あの問題意識は非常に大切だと今も思いますね。日本は本当に近代化したのか。忖度(そんたく)と同調圧力が幅を利かせて、個人が確立されていない」

 回想録の本書には、出版界への警鐘がちりばめられている。出版という営為はムダのかたまりだが、そのムダがこの仕事を支えている、効率だけに目が行ってしまえば出版社は元も子も失ってしまうだろう――。

 「出版は、ただ商品を作っているのではないんです。本に何を込めるのか。赤字が困るのはよくわかります。でも原点を忘れてはいけない」

 名刺の肩書は「フォーラム・子どもたちの未来のために」実行委員。子どもの本の作家や編集者らと、言論、表現の自由を守ろうと活動している。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2019年11月23日掲載