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人気講談師・神田松之丞さんが絵本を監修 子どもたちに「講談」の面白さ伝えたい

文:澤田聡子、写真:講談社提供

 独演会のチケットは即日完売、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの講談師、神田松之丞さん。テレビやラジオでの歯に衣着せぬトークも人気で、下火となっていた講談人気を盛り返し、最近のブームを牽引した立役者だ。その松之丞さんの監修のもと、講談社が「講談えほん」シリーズの刊行を開始した。

 講談とは史実をベースにした物語をひとり語りで伝える伝統芸能。釈台(しゃくだい)と呼ばれる小さな机の前に座った講談師が張り扇(はりおうぎ)を叩きながら、独特の調子で読み上げる。今回、創業110周年記念として「講談えほん」シリーズを刊行した講談社の社名は、この「講談」に由来している。

ナマの講談の迫力に引き込まれる

 イベントは、講談社「全国訪問おはなし隊」隊長の黒澤令子さんによる読み聞かせからスタート。参加の親子全員に配布された『西行 鼓ヶ滝(さいぎょう つつみがたき)』(文・石崎洋司、絵・山村浩二)をゆったりとした名調子で朗読した。兵庫・有馬温泉近くの「鼓ヶ滝」を訪れた西行が歌を詠むと不思議な老夫婦と孫娘が現れて……という、若かりし西行法師の歌行脚を描いた講談だ。

講談えほん発売イベントより

 初めて触れる「講談えほん」のお話を真剣な表情で聞く子どもたち。読み聞かせが終わると、会場からは大きな拍手が送られた。短編アニメーション『頭山』で知られる山村浩二さんの飄々とした味わいの絵と相まって、子どもには一見難しそうな話もするりと飲み込めたようだ。キャラバンカーで全国を回る“読み聞かせのプロ”、黒澤さんは「知らない言葉が出てきたり、現代とは言い回しが違ったりするので、最初はちょっと戸惑うかも。でも、身構えずに親子でぜひ声に出して読んでみてほしい」とアドバイスする。

 続いて、舞台には出囃子とともに神田松之丞さんが登場。「講談を初めて聞く、という方もいらっしゃると思うので、今日は分かりやすくて面白いお話をしようと思います」。子どもたちのために松之丞さんが選んだ講談は「違袖(たがそで)の音吉」。小学校低学年の子どもでも飽きずに楽しめるよう、「会話が多くて、観客のお子さんたちと同じ年齢くらいの子どもが出る演目にした」と語る。ちょっと生意気な音吉と親分のコミカルなかけ合いが巧みな声色と大きな身振り手振りで演じられ、会場の子どもたちからは大きな笑いが巻き起こった。

講談えほん発売イベントより

 初めての講談を堪能した後は、講談の小道具、「張り扇」が配られ、松之丞さんから使い方のレクチャーも。「張り扇は文章の句読点……点や丸のところでパンパン!と机を叩くもの」と解説、「ヤアヤア、我こそは……」から始まる“名乗り”を来場者全員で練習した。張り扇を片手に舞台の上で堂々と口上を披露した小学生2人に続き、司会のTBSアナウンサー・出水麻衣さんも挑戦。会場が一体となって、ひとときの「講談師気分」を味わった。

絵本の先に未来の講談ファンや講談師がいる

 今回、「講談えほん」シリーズとして発売されたのは『西行 鼓ヶ滝』『宮本武蔵 山田真龍軒』『大岡越前 しばられ地蔵』の3冊。初挑戦の絵本監修については「美文調は声に出して読むと気持ちいいが、子どもには難しいところもある。分かりやすさと講談独特のリズムを両立するのが大変だったが、その点は成功したんじゃないか」と振り返る。

 「絵本に選んだ3作は、講談の面白さを伝えるのにぴったりの素材。例えば、『大岡越前 しばられ地蔵』を読んだ後に、葛飾区のお寺にある実物の『しばられ地蔵』を見たら、子どもは『本当にあったんだ!』とびっくりするはず。絵本を通じて講談に親しみ、大人になってからも思い出してもらえればうれしい」と語り、「この絵本を読んだ子どもたちが、未来の観客や講談師になってくれれば」と力を込める。

講談えほん発売イベントより

 自身も1歳の子どもを持つ父親であり、家ではよく読み聞かせをしているという。「絵本は家に100冊くらいあるんですけど、好き嫌いがはっきりしていて嫌いな絵本には見向きもしない(笑)。お気に入りの絵本を何度も眺める姿を見て『ああ、子どもってこんなに絵本が好きなんだ』って実感しました。講談えほんはもうちょっと大きくなってから、楽しんでもらいたいですね」と笑う。

 来年2月には真打昇進に伴い、「六代目神田伯山(はくざん)」を襲名。「プレッシャーもあるけれど、“伯山”という大名跡に恥じぬよう、頑張りたい」と決意をにじませた。