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堀部篤史さんが薦める新刊文庫3冊 建築における「美」とは何か

堀部篤史が薦める文庫この新刊!

  1. 『負ける建築』 隈研吾著 岩波現代文庫 1254円
  2. 『茶室学講義 日本の極小空間の謎』 藤森照信著 角川ソフィア文庫 1276円
  3. 『日本の美』 中井正一著 中公文庫 902円

 1990年ごろ、バブル景気の最中に、木造2階建てだった実家が建て替えられた。正面には建築家がどうしてもと譲らなかったという電柱のような不思議なオブジェ。なぜこのような不思議なデザインになってしまったのだろうと疑問だったが、(1)を読んで、少し合点がいった気がした。建築は「作品」のようでいてもそれは、時代の要請によって形作られたものだ。20世紀より経済活性のカンフル剤として使われ、さらには建築そのものが投資の対象として商品化された時代を経て、巨大であり、資源を浪費する建築物が忌み嫌われつつある現在まで、現代建築の変遷がよくわかる。大きいことが、ネガティブな意味を帯び始めると、小さくあることが注目される。

 (2)は茶室という日本独自の極小空間がどのようにして生まれたのか、日本の住宅史上に位置づけながら教えてくれる。「闘茶」や「殿中の茶」、「市中の山居」という過去の様式や美意識を踏まえてこそ、利休のような存在が登場した。

 西洋と東洋、そして中国と日本の比較からはじまる日本美講義(3)では、その美の源泉を日本国内ではなく中国南方に求めている。著者いわく、日本美の歴史には「無所住心」、機に応じる構えが脈々とあるという。遺著となった『日本の美』と、若かりし頃に書かれた論文・エッセーを収録した『近代美の研究』、この文庫本に収録された2作の文体を読み比べてみれば、「軽み」の深さを体得するに至った著者自身の変遷が読み取れて興味深い。=朝日新聞2019年12月14日掲載