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『こども六法』の著者・山崎聡一郎さん「法律を知っていれば子どもだって自分を守ることができる。」

撮影:中惠美子

 僕は小学校の高学年でひどいいじめにあいました。どうにかならないか悩んでいた時、授業で「日本国憲法」に「人権」なるものがあると知ったんですね。「いじめは人権侵害? どこかに助けてもらう方法が書いてあるのでは?」と憲法を全部読みましたが、どう守るかまでは憲法には書いてありません。当時の僕は「人権とか書いてあるのに全く守ってくれない。憲法なんて絵空事だ!」と怒りました。その後、中学の図書館で読んだ六法全書の「刑法」にはそれがあって、「もっと前から知っておきたかった。知らないから自分で自分を守れなかった」と後悔したんです。

 一方でその頃、部活のトラブルから無自覚なままいじめの加害者の側になってしまったこともありました。「絶対に加害者にはならない」と思っていたし、むしろ当時は「自分が被害者だ」くらいに思っていたんですが、客観的に見れば加害者でした。つまり加害者は自分の行為を自覚しにくいということであり、やはりいじめの解決には被害者が「やってはいけないことをされている」と声を上げるしかないと思い知ったわけです。

 それ以降は自分を守れるようになろうと法律の勉強を続け、大学でも「法教育を使っていじめの問題を解決する」ことを研究テーマにしました。その中で作った「法律はみんなのためのルールなのに、わかるように書かれてない」と六法を訳した本がプロトタイプとなり、今回、クラウドファンディングで多くの方の賛同を受けて出版することになりました。

 気をつけたのは、何と言っても「正しさ」です。教室においてもらうのに間違ったことが書いてあったら「有害図書」になってしまいますから。その上で子どもに興味を持ってもらえるようにするにはどうしたらいいのかを考えるのが大変でしたね。実は多くの先生から「荷が重すぎる」と監修を断られもしました。法律の文章や単語はあまりにも完成されているので、それをあえて言い換える場合、どんな訳し方をしてもまず間違いなく批判されます。これまでこういう本がなかったのは、子どもたちには読みこなす読解力がないと思われていたのもありますが、こうした難しさもあったのでしょう。法教育に携わる弁護士の方が「なぜ私たちが先に出せなかったのか反省しないといけない」とおっしゃってくださいましたが、むしろ僕は法律の専門家ではないので、それがいかに「勇気ある一歩」なのか自覚がなかったから出来た(笑)。

 この本の使い方として「まずは10分、パラパラ読み通してみて」と伝えています。困ったときに読めばいい本ですが、そのためにはこの本の存在と何が書いてあるのかを認識しておくことが必要です。とはいえこの本が「いじめ対策」になる子もいれば、ならない子もいます。読まない子を「君が助けを求めてないからいけない」と責めるようなものにはなって欲しくないし、そういう子には別の方法が必要なのだと思います。

 僕は自分のやりたいことしかやらないタイプで、もともとこの本も「世の中のため」というより自分のために作ったものでした。それがこうしていろんな方から「ありがとう」と言われるようになると、ちょっと得した気分ですね(笑)。