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5Gの登場で出版業界はどう変わる? 好書好日オンラインサロン開設記念トークイベント開催(後編)

文:篠原諄也、写真:松嶋 愛

>好書好日オンラインサロン開設記念トークイベント前編はコチラ

5Gの登場でコンテンツはどう変わる?

秋吉:次は2020年から始まる5Gをきっかけにお話できればと思います。

長瀧:5Gは色々な側面があるので、全部は言えないんですけれども、ひとつあるとすると、ヒットの生まれ方や芸能人・スターの生まれ方が変わっていくだろうなというのがあって。今も仕組みはたくさんあって、ライブ配信の動画やインスタなどSNSからインフルエンサーが生まれていますね。これから5Gになると、制限がグッとなくなるので、それがもっとやりやすくなる。見る側としても親しむと思いますし、ライブ配信する側も普通の中学生でもできるようになる。そこからスターが生まれてきて書き手になることはあるでしょうし、すでに書いていらっしゃる人が新しいメディアを得てスターになり、本が売れることもあると思います。

 今日はこんなパジャマみたいな格好で来たんですけど、おほしんたろうさんという方のイラストのロンTをヴィレッジヴァンガードで買ってきました。福岡でお笑い芸人をやっている方で、インスタで毎日イラストに一言のコンテンツをあげていらして、それが凄い面白くて。LINEのスタンプも凄い売れていると思います。そこからファンがついて、本も出されていますしグッズも売れている。そういう新しいエコシステムが今もあるんですけど、もっと加速されていくのが5Gの時代かなと思います。

秋吉:5Gで覚えておいた方がいいポイントが3つありますよね。

長瀧:高速大容量、低遅延、多数同時接続ですね。

嶋:遅延しなくて同時多接続、さらに容量がでかいとなると、色々できると思うんですよね。最近、読書会が流行ってるじゃないですか。東京に作家がいて地方と結んで、同時に皆集まって本について議論するような5G読書会ができたりとか。イベントだけでも色々な可能性があると思います。

長瀧:有線で繋がなくても、スマホひとつでオンラインで参加できる。そういうことはよりやりやすくなると思います。

嶋:ライフスタイルがどう変わっていくかというと、IoTと5Gが一緒に進んでいくと、今までのモノが全部メディアになる。車がコネクテッドカーになって、情報の発信の場になる。家がコネクテッドホームになって、情報の摂取の場になる。トイレも店も自動販売機も...という風になると、人間の周りのモノが全部常時接続してる状況になるわけですよね。

 今まではテレビなどのマスメディアやネットやスマホが企業と生活者の接点だったけれど、これからは車も家も自動販売機も店も街も常時接続していくわけですよね。しかもそこで課金もできるし、体験も作ることができる。例えば、広告の世界では、15秒で「こんな商品です」と伝えることが広告の仕事だったわけですけど、企業が直接生活者と色んな所で常時接続していくと、伝える広告を作る仕事から繋がる仕組みを作る仕事になってくるわけですよ。

 でもそういうことを考えると、寝ると勝手に読み聞かせをしてくれるベッドとか、出版コンテンツを持っている人と住宅メーカーがそういうことを一緒にやればできるわけです。車も自動運転になればその間何してもいいわけだから、ディズニーやNetflixの配信もできる。車の中で読書をする生活もあるかもしれないわけで。IoTと5Gの掛け合わせの世の中で、本に関するどういうサービスを提供できるかを考えたほうがいいんじゃないかと思います。

秋吉:5Gの世の中を見越して、自分のサービスにどうやって落とし込むかを考えることが大事だということですよね。

「本屋には世界を構成する全部の要素がある」

長瀧:最近流行り始めているOMO(Online Merges with Offline)という概念があります。これも5Gが普及するとよりその傾向が強まっていくもののひとつです。この前段階がO2O(Online to Offline)で、スマホなどで調べて店頭に来てもらうような仕組みのことです。それがもっとぐちゃぐちゃに混ざった状態がOMOですね。店頭に来てもまだそこでスマホで何か調べていたり、QRコードを読み込んで情報を見たりする。店頭に来たけれど買わないでオンラインで買うとか。でもそれってどちらでもいいよねという世界観がOMOです。

 ひとつ例を挙げると、家電量販店は結構もうそういう風にやっている。店頭がショールーム化しているんですね。ヨドバシの店頭で説明を聞いて、ヨドバシオンラインで買って家に届く。こういう時代になると店頭の使い方は変わってくるなと思っていて、本屋さんでこれができるのかどうか。店頭で見たとしても、オンラインで買おうとなるとアマゾンや楽天ブックスが強い。出版社はちょっと違うかもしれないですけどね。本屋の店頭のあり方はどういう風にしていくのか。デジタルが進んでいくと、より尖ってくると思います。

秋吉:オンとオフがないということですよね。

長瀧:そうです。ずっとオンですよね。私も今スマホを見ているし。

秋吉:ずっとオンラインの中に入っちゃうと。5Gになって、全て自分の世界がオンラインになる。

嶋:そこは凄い悩んでますね。今はまだリアルな本屋のほうが自分が気付いていない好奇心に気づくポテンシャルは高いと思っているんです。なぜかというと本屋って、世界を構成する要素が全部入っているわけですよ。例えばB&Bは40坪くらいしかないんですけど、歴史の本、宇宙の本、ガーデニングの本、ジャズの本、経営者の名言本、ドロドロ恋愛小説、若者の成長物語まで、本当に世界を構成するものが全部あるわけじゃないですか。それを7,8分あれば全部見えちゃう。だから「実は俺はこれが欲しかったかもしれない!」と発見ができる。

 ネットで「数分あげるよ」と言われても、世界を構成する要素は見られないわけですよ。あるひとつのテーマを掘り下げるのにはいいかもしれない。「マダガスカル」について数分で色々知ることはできる。それに対してリアルな本屋は、その空間で面陳してある本、本の背表紙、平積みしてある本など、数分で得る情報量はとてつもなく多い。その意味でリアルな本屋のほうが今は優位に立てる場だと思っています。でもそれこそ5Gができると映像でリアルな本屋を歩いている感覚を体験できるかもしれない。

長瀧:VRを使うと見られるかもしれないですね。

嶋:「今日のB&B」といって本棚を全然各地でVR体験してもらってもいい。「こういう本が欲しい」と言ったら「これあげるよ」みたいなこともできるかもしれない。そういうことはやってもいいかなと時々内沼晋太郎君(B&B運営者)と話したりしますね。

 本を一冊一冊見せるんじゃなくて、うちの本屋の棚を全部見せる感覚です。それこそが売りなわけじゃないですか。本屋って元祖セレクトショップじゃないですか。どこの本屋でBRUTUS買っても同じものを売っているわけですよ。結局、この本屋が好きだと思うのは、同じ本がどう並べられているか、どういうプレゼンテーションがされているかが重要な要素なわけじゃないですか。その強みを生かすデジタル上の表現を考えてあげたほうがいいと思います。

長瀧:嶋さんが仰るように、出会いや気づきを得る補助的ツールとしてオンラインを使うのは凄くアリだと思っています。積んである本の横にQRコードを置いておいて、それを読み込むと著者がその本についてプレゼンしている動画がすぐ見られるとか。皆が動画をすぐ見られるツールを持っていると、何か補助的コンテンツを配置してあげるといい。動画じゃなくても続きのコンテンツが読めたりとか、色々やりようはあるよなと思います。

秋吉:確かに本屋さんに行くと著者のサインとか置いてありますよね。そういう風に変えていくのはあるかもしれないですね。

読者コミュニティを作ることに注力すべき

秋吉:それでいうと嶋さん。作家さんが本を出した時に、やっぱり本屋としっかり組んで、体験ごとユーザーに伝えるみたいなことをしていくといいんでしょうか?

嶋:ワインの本だったらワインの試飲体験も一緒に売るとか、そういう本の売り方も大事になってくると思いますよ。ワインの本を作る編集者は本を作ることだけが仕事じゃなくて、ワインの体験をさせることが仕事だと。そういうプロデューサー的な感覚で仕事を組み立てることが大事だと思います。

 あと今の話で言えば、出版社は読者のコミュニティを作ることに注力したほうがいいんじゃないかと思います。好書好日さんがまさにこのイベントでやられることなのかもしれませんけど。ビジネス書を読む人たちのコミュニティとか、ある趣味について本を読むコミュニティとか。B&Bは開店以来、毎日作家や編集者などを呼んでイベントをやっているんです。本を売るだけだとマネタイズが難しいこともあるんですけど、ある意味、書店が色んなコミュニティの中心になっていくことへの挑戦でもあって。数を人に言うとびっくりされるんですけど、B&Bでは年間500本以上のイベントをやっているわけですよ。でも作家を中心に集まる人たちが会場ではわちゃわちゃしてて凄い楽しそうなんですよね。

 日本はあんまりそういう読者の人たちがリアルな場で会って楽しめるイベントやコミュニティがない。それを一生懸命作ると、そういうコミュニティに向けて直接本のプロモートもできるようになっていく。ビジネス書を出している版元さんがいくつか集まってビジネス書のコミュニティを作る。それこそ(長瀧さんの)東洋経済新報社さんなどが頑張って、ビジネス書の読書会をやったら相当流行ると思うんですよね。

 あともうひとつは出版社が新刊書を売りたいのは分かるんですよ。どんどん作って取次に入れないと、お金がグルグルまわっていかない側面があるのは理解しています。でも、コミュニティを作るということで言えば、既刊本を売ることを頑張ったほうがいいんじゃないかと思います。

 例えばYouTubeのおかげで、20代の子も80年代の音楽が超大好き!みたいな状況になっているわけです。「なんでそんな音楽知ってんの。生きてねえだろ」みたいな(笑)。「なんで知ったの」と聞くと、皆「YouTubeで見た」と言う。もはやその子たちって、ネットにある断片をテーマだけで追っているから、時代とか関係なしにコンテンツをサーフィンしているわけです。だから凄い古典というか、既刊本を売るチャンスはあると思うんです。もちろん在庫管理など、色々な問題があることも分かった上で言ってますけど、何かヒントになるんじゃないかと思う。

秋吉:確かにNetflixで「ストレンジャー・シングス」が凄く人気で、あれは80年代の音楽がかかりましたよね。僕は昭和40年代生まれなんですけど「昭和40年男」という雑誌があるじゃないですか。あれは僕が読んだら懐かしいって感じなんですけど、若い子たちが見て昭和40年代が凄いかっこいいと思ってたりしている。今までだったら40年代生まれの人に向けた本だったのが、若い子向けにも同じことができるということですよね。そういう所にもこれからの本の売り方のヒントはありそうですね。

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