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映画「記憶屋 あなたを忘れない」に出演の蓮佛美沙子さん 何が善で悪か、役を通して考えさせられた

文:土田ゆかり、写真:斉藤順子

原作から役柄の色や季節をイメージ

――蓮佛さんは、主人公・遼一の恋人、杏子を演じました。大切な記憶を失ってしまった女性を演じる上で、どのようなことを心がけていましたか?

 遼一は、杏子に自分のことを忘れられているのに、たびたび杏子の元を訪れるんです。全然知らない人に、付き合っていたんですよって言われるって、普通に考えたら少し怖いですよね。でも、遼一の一生懸命さに接しているうちに、警戒心が解けていきます。その解ける感じを少しずつこぼれていくように表現することを意識しました。

――原作では遼一に想いを寄せられる杏子ですが、映画では恋人役と、設定が違いました。原作で参考にした部分はありますか? また、原作を基にした作品に出演する上でのこだわりはありますか?

 私は、原作がある作品に取り組むときは、その役柄に対して色や季節でイメージするようにしています。衣装とメイクで役を作る部分もありますが、自分のスイッチが入るワードや質感を何となく覚えておくようにしています。

©2020「記憶屋」製作委員会

 あと、原作がマンガか小説か、という点でも違いますね。お芝居に正解、不正解はないと思っていますが、マンガが原作だと、そのビジュアルを再現することが大事ですし、答えがあるものだと思います。小説の場合は、人によって抱くイメージが違うと思うので、ビジュアルの記述に全部線を引いて、書き出す作業をします。その通り再現するかは別ですが、自分の中にそのイメージを取り込むようにしています。

 今回は原作と映画の設定がだいぶ違ったのですが、共通している杏子の質感というか、責任感が強い感じはベースに持つようにしました。杏子の色は、淡いピンク。記憶がなくなってからは、そこに藍色が少し入るようなイメージです。

――原作を読んだ感想を教えてください。

 記憶屋という設定が面白いなと思いました。これは小説と映画、両方に言えることですが、記憶屋の存在意義も含めて、「答えはここだよ」と言っていないところがすてきだと思います。記憶を消してしまう、つらいことを忘れられるということは果たして正しいのか、何が善で何が悪かという答えを読者や観客に委ねていますよね。私だったらどうするか、すごく考えてしまいました。

――蓮佛さんには消してほしい記憶はありますか?

 杏子のようなつらい経験をしたら分からないですが、基本的には消したくないです。つらいことや、心が折れそうになったことがあったからこそ、変われた自分があると思っています。

 でも、一つ消したい過去はあります。私は小学校低学年のころからMr.Childrenが大好きなんです。2016年に出演したNHKの朝ドラ「べっぴんさん」の主題歌をMr.Childrenが歌っていたご縁で、ライブに行ったとき楽屋にご挨拶に伺いました。そのとき、あまりに感動して泣いてしまったんです。今思い出しても、穴があったら入りたいくらいです。都合がいいけれど、お会いできた思い出は消さずに、その恥ずかしい部分だけ消したいですね。

生きる上で何を信じ、大事にするか

――この映画の魅力、見所はどんな点だと思いますか?

 記憶屋が誰なのかというミステリーの部分もあるけれど、生きていく上で何を信じて、何を大事にするのか、自分ならどうするかということを考えさせてくれる作品です。遼一のあきらめない強さに、杏子も少しずつ警戒心を解いていくんだと思います。2人の未来が、明るい一歩になればいいなと思いながら演じていました。そして、そうなるとしたら、その運命は遼一が自分の強さでつかんだということだと思います。

©2020「記憶屋」製作委員会

――蓮佛さん自身は、どんなジャンルの本が好きですか? 特に好きな本があれば教えてください。

 最近はなかなか読書の時間を取れていないですが、薦められれば割となんでも読むほうですね。

 伊坂幸太郎さんの本はよく読んでいました。『重力ピエロ』は、「春が二階から落ちてきた」という冒頭を今でも覚えています。「春」って、人の名前なんですけど、文章だけ読むとハッとしますよね。ストーリーの単純な面白さだけでなく、言葉のセンスがいいなあと思います。

 高校生のとき、バイブルのように読んでいた本は、金城一紀さんの『SPEED』です。怒りを抱えることはすごく大事だなと思いました。嫌なことがあったとき、怒りを抑え込む人って多いですよね。でも、ちゃんと怒るって実はすごいことで、尊いことだということに、この本を読んで気づかされました。

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