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大矢博子さんが薦める新刊文庫3冊 歴史の中の知られざるドラマ

大矢博子が薦める文庫この新刊!

  1. 『白村江』 荒山徹著 PHP文芸文庫 1034円
  2. 『治部の礎』 吉川永青著 講談社文庫 1034円
  3. 『鳳凰の船』 浮穴みみ著 双葉文庫 704円

 (1)七世紀半ば、政変で追放された百済の王子・豊璋(ほうしょう)は処刑寸前のところを蘇我入鹿に救出され、倭国(わこく)で暮らすことに。だがまもなく入鹿は乙巳(いっし)の変で殺され、豊璋は庇護(ひご)者を失う……。
 新羅、高句麗、百済、そして倭国。白村江(はくそんこう)の戦いを核に、激動の東アジア古代史を描いた力作だ。渦巻く野心と入り乱れる策謀、サプライズに満ちた逆転劇。馴染(なじ)みの薄い時代かもしれないが、圧倒的なスケールで描かれた波瀾(はらん)万丈のロマネスクは、むしろこの時代への興味を搔(か)き立てる。

 (2)官僚としては優秀だが戦下手で人望がない、とされることの多い石田三成。だが本書では、戦乱を終わらせ秩序をもたらすという大義のため、敢(あ)えて憎まれ役を演じたという解釈で歴史を読み替えていく。
 忍城(おしじょう)の水攻めの失敗も、秀吉におもねると謗(そし)られたのも、実はすべて大義のための計略だった……という展開には驚かされた。たとえ誰に認められずとも自分の信じた道を進む三成の孤独な闘いは実に感動的。

 (3)幕末から明治へと移りゆく時代の函館を舞台にした短編を五編収録。
 洋式帆船造りの名匠と呼ばれた老船大工の情熱、北海道庁初代長官の岩村通俊が開墾に尽力したプロシア人商人を切り捨てた理由、函館発展のために事業を興した英国人・ブラキストンが受けた妨害……。
 江戸や京が舞台の維新ものとは違う、函館ならではのエピソードが新鮮。人物や出来事が緩やかにつながり、先人たちの思いが今に伝わっていることを実感させてくれる。=朝日新聞2020年2月8日掲載