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山田航さんが薦める新刊文庫3冊 博覧強記のウェブ日記

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 『八本脚の蝶』 二階堂奥歯著 河出文庫 1320円
  2. 『独居老人スタイル』 都築響一著 ちくま文庫 1100円
  3. 『オノマトペ 擬音語・擬態語の世界』 小野正弘著 角川ソフィア文庫 968円

 (1)は2003年に25歳で自ら命を絶った編集者が、死去直前まで書いていたウェブ日記。東雅夫や穂村弘たち、生前に交流があった人々の回想録も収められている。古今東西の幻想小説、詩歌からポルノグラフィーに至るまで、現実を超えた世界を描こうとするあらゆる作品を渉猟した博覧強記ぶり。引用も多く、日記であると同時に幻想文学アンソロジーとしても読める。知的で繊細な文体と、少しずつ精神が追い詰められてゆく様が描かれるところは、さながらゼロ年代版『二十歳の原点』。

 (2)は一人暮らしの老後を生きる異才たちのインタビュー集。「孤独死」は悲劇で「独居老人」は寂しい生き方だ、という固定観念を打破するべく書かれた本だ。著者の人脈ゆえか芸術家が多いが、個人的に好きなのは鳥取で輸入雑貨店を営む女性。とにかく格好いい人だ。テレビ東京の番組「家、ついて行ってイイですか?」が好きなのだが、あれも「独居老人」について行った回に当たりが多い。本書のオリジナルが刊行された翌年に開始の番組なので、もしかしたら影響があるのかも。

 (3)は国語学者によるオノマトペ(擬音語・擬態語)の歴史についての本だが、ライトな筆致で「言葉の楽しさ」に全振りして書かれている。なにしろ、ゴルゴ13がライターに火を点(つ)けるときの音「シュボッ」の変遷について延々と書かれていたりするのである。「日本語最古のオノマトペ」など、言葉好きにはたまらない話題にあふれた一冊。=朝日新聞2020年2月15日掲載