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紗倉まなさん「春、死なん」インタビュー 「らしさ」の中で隠れがちな性

紗倉まなさん=大野洋介撮影

 現役の人気AV女優として活躍しながら、作家としての顔も持つ紗倉(さくら)まなさんが小説集『春、死なん』(講談社)を出した。よくあるタレント本と敬遠するなかれ。「高齢者の性」と「母の性」を独特の観察眼で描いた。

 本書は、紗倉さんにとって3冊目の小説単行本。芥川賞作品を数多く出してきた文芸誌「群像」に掲載された「春、死なん」と「ははばなれ」の2作品を収録した。

 歌人・西行が詠んだ和歌をタイトルにした表題作の主人公は70歳の富雄。6年前に妻を亡くし、2世帯住宅で暮らすが、息子夫婦との交流はほとんどない。その上、目に春がすみがかかっているような症状に悩まされ、自慰行為をする孤独な日々を送っていた。

 「老人は黙ってゲートボールでもしていれば満足なのか」。そんな言葉を発する富雄を通じて日常で隠れがちな高齢者の性を浮かび上がらせる。年長の異性を主人公にすることは、難しくなかったという。

 「50~70代って、実は私の作品を購入してくれて、イベントでも接する機会が多い世代。親近感があるんです。おじいちゃんでも、性的な欲望は枯渇しないんです」

 家族という枠組みの中で起こる理想と現実の乖離(かいり)は、富雄の亡き妻や長男の妻にも当てはまる。「妻」や「母」という役割に抑圧されながら生きてきた。

 紗倉さんは「男は仕事、女は家事」といった性別による役割分担への違和感を作品に込めた。役割を「清く、正しく、美しく」演じることは、自由を奪い取る怖さも秘めているという。「まだまだ古風な価値観が残り、性別や年齢、役割によって、『らしさ』がつきまとっていると思うんです。そうした理想像からの解放を描きたかった」

 短編「ははばなれ」は、女性性が主題で、26歳の紗倉さんと同世代の女性・コヨミが主人公だ。結婚して2年たったが、子どもはいない。そのコヨミを帝王切開で産んだ時にできた手術痕を気にする母には、恋人だという男が現れる。

 印象的なのは、主人公が8歳の時に家族で外食をしたことを回想する場面だ。母が娘の前でドーム形に盛り上がった料理にナイフを入れて、中身があふれた時に放った言葉は「なんかこれ、帝王切開を思い出すわ」。その言動の意図とは。読者の想像力をかきたてる巧みさがある。

 執筆活動は「『紗倉まな』の仕事をしている延長線にあって、作家とは決して名乗れない」と謙遜するが、小説家としての感性は高く評価されている。(宮田裕介)=朝日新聞2020年2月29日掲載

エッセイ「働くおっぱい」紗倉まなさんのインタビューはこちら