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「ディープ・シンキング」「動物と機械から離れて」 経済だけでない深い議論をしよう 朝日新聞書評から

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2020年03月07日
ディープ・シンキング 知のトップランナー25人が語るAIと人類の未来 著者:セス・ロイド 出版社:青土社 ジャンル:情報理論・情報科学

ISBN: 9784791772308
発売⽇: 2020/01/14
サイズ: 19cm/366p

動物と機械から離れて AIが変える世界と人間の未来 著者:菅付雅信 出版社:新潮社 ジャンル:コンピュータ・情報科学読みもの

ISBN: 9784103530718
発売⽇: 2019/12/24
サイズ: 20cm/312,6p

ディープ・シンキング 知のトップランナー25人が語るAIと人類の未来 [著]ジョン・ブロックマン/動物と機械から離れて AIが変える世界と人類の未来 [著]菅付雅信

 AI(人工知能)に関する書物が目白押しである。これからの人間社会はどうなるのか、期待も不安も、これまでになく大きい。
 一人の著者による書物は、一人の先生の講義を聴いているようで、その人が問題と思うことを中心に、考えが展開されていく。それはそれでおもしろいのだが、他の研究者たちはどう考えているのか、並べてみたいと思う。そこで、この2冊を読んでみた。どちらも、AIの進歩に対する多くの学者たちの意見を集めてあるからだ。これはまるで、AIをテーマにした仮想シンポジウムである。
 『ディープ・シンキング』は、サイエンス関連の本の編者として有名なジョン・ブロックマンが、当代一流の知性25人に対してAIに関する考察を寄せてもらった論集である。25人は、それぞれが物理学、工学、認知科学などの専門家で、彼らの論考はたいへん専門的で難しい。
 しかし、AIの未来に対して楽観的な人も悲観的な人も、ほとんどの学者たちが、なんらかの懸念を表明している。機械学習のプロセスには透明性がないので、どうしてそういう結論になるのかが説明できない、人間が持っている包括的な価値観を機械に持たせることは難しい、価値観や目的の一致がなければ、機械が真に人間と一緒には働けない、などなどだ。
 発達心理学者のゴプニックは、「AIは人間の4歳児に到底かなわない」と言い、分子生物学者のラマクリシュナンは、「コンピューターがバクテリアの上に立つとは到底信じられない」と言う。哲学者のデネットは、「人工的な意識を持ったエージェントなど必要ない、私たちはツールを作っているのであって、仲間を作っているのではない」と言う。
 『動物と機械から離れて』は、編集やコンサルティングを手がけてきた著者が、AIの今後について、多くの学者たちにインタビューした成果である。著者は、AIが本当に人間を幸せにするのか、という問いを持ち、人間が人間であるための「抗(あらが)い」の旅として、このインタビューを敢行した。
 AIは、自由、幸福、人権、民主主義の観念をどう変えるか、どんな問題があり得るか、法学者の観点から論じたものはあまり前面に出てこないので、私は本書のこの部分がとても興味深かった。
 読み終わると、改めて、AIを考えることは人間とは何かを考えることだとわかる。そして、私たちはまだ、人間の作動原理をよく理解していない。読み進むほどに、読者もこの「シンポジウム」に参加して、何か言いたくなるだろう。AIの進展を単に経済的チャンスだと見るだけでなく、こんな深い議論が必須なのだ。
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 John Brockman 1941年生まれ。編集者、著作権代理人。科学のオンラインサロン「エッジ」を主宰。編書に『キュリアス・マインド』など▽すがつけ・まさのぶ 1964年生まれ。編集者。著書に『中身化する社会』など。