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「上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!」書評 女性差別に切れ味鋭い名タッグ

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2020年03月14日
上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください! 著者:上野 千鶴子 出版社:大和書房 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784479393320
発売⽇: 2020/01/12
サイズ: 21cm/191p

上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください! [著]上野千鶴子、田房永子

 上野千鶴子といえば、昨春の東大入学式での祝辞が記憶に新しい。東京医科大での不正入試で女性が意図的に排除された事実から始めて、東大男子学生による集団凌辱事件に触れながら、上野はこう言った。「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」と。
 一方、田房永子は『母がしんどい』などの名著で、いわば毒母の抑圧の下で生きる娘の大変さを、ほのぼのとしたタッチの漫画だからこそ胸に迫るものとして描いたことでも知られる。
 その二人がフェミニズムについて長時間の対談、あるいは田房によるロングインタビューに挑んだのが本書である。
 上野はいつもの語りぶりで女性運動の歴史を語り、現在も続く女性差別の問題をズバズバ斬っていく。おかげで男性である私もつい気づかずにいる自分の無知を指摘されておおいにたじろぐのだが、そこで田房が母との個人的な関係や社会構造の至らなさを的確な例として挙げてくれるため、何がおかしくてそうなっているのかがよくわかる。
 そもそも田房はこれまでの著書でも、誰もうまく焦点化してこなかった家庭内の重大な事象を明るみに出すのがきわめてうまい書き手だった。そしてそれが当を得ているからこそ、ヘビーな中身が客観化され、読者の気づきをソフトなものにしてくれていたと思う。
 同じことが上野とのやりとりでもあちこちにあり、また補注に丁寧な漫画での解説が添えられているからこそ、フェミニズムを語る時に起きがちな反対者からの不当なバックラッシュ(感情的な反動)があったとしても、それをユーモラスにほぐすだろう。
 ゆえに上野も安心して自由自在に発言し(「私がフェミニストになった理由はね、私怨よ」など)、それが実に面白い。名コンビといえるのではないか。
 いや、文章での補注に編集者の気配りが利いているから、名トリオと呼ぼう。
    ◇
 うえの・ちづこ 1948年生まれ。社会学者。『女ぎらい』など▽たぶさ・えいこ 1978年生まれ。漫画家、ライター。