1. HOME
  2. インタビュー
  3. 著者に会いたい
  4. 高山トモヒロさん「手のひらの赤ちゃん」インタビュー 不遇の時代へて奇跡紡ぐ

高山トモヒロさん「手のひらの赤ちゃん」インタビュー 不遇の時代へて奇跡紡ぐ

お笑い芸人・高山トモヒロさん

 芸歴30年超。みずから「細々と続けてきた」と振り返る。お笑い好きの関西人には知られた存在だ。若手時代はコンビ「ベイブルース」として西のお笑い新人賞を総なめに。スターの階段をのぼり始めた矢先の1994年、相方の河本栄得さんが急死。同期や後輩が全国区になるのを横目に、自身はピンで一時は仕事が激減した。2001年から和泉修さんと「ケツカッチン」を結成し、劇場と在阪メディアで活動している。

 かつては「周囲に厳しくあたった」というが、不遇の時期を経て気遣いの人に。養成所で同期だった宮迫博之さんが謹慎後に活動再開し、SNSなどで批判を浴びるとツイッターで擁護した。後輩と飲むと、無理をして全額支払う。「芸人らしい生き方に、まだ憧れてるんです」

 一昨年夏、そんな人柄を知る仕事仲間の夫妻から呼び出され、突然「私たちの赤ちゃんの記録を書いて欲しい」と懇願された。わずか325グラムで生まれ、新生児集中治療室で腸や肺の機能の弱さ、未熟児網膜症などと闘う奈乃羽(なのは)ちゃんだ。相方と自身の家族について書いた本が2冊あり、白羽の矢が立ったが、自分と接点のない人を取り上げるのは初めて。奈乃羽ちゃんとその両親、同じ境遇で交流を深める家族たちに密着する日々が始まった。

 奈乃羽ちゃんは7度の手術を経験し、たびたび感染症に襲われた。そんな姿を見ると、「芸人としてプラスなのか、すごく悩んだ」という。舞台や番組では人を笑わせる仕事なのに、執筆活動ではシリアスな場面に向き合わざるをえない。劇場の待ち時間に気持ちを切り替えるのは難しい。自宅で夜通し執筆を続けた。

 自身も3人の娘を持つ父。「今はみんな成人を迎えて普通に生きてるけど、それって奇跡みたいなもんやなあと思うようになりました」(文・写真 後藤洋平)=朝日新聞2020年3月21日掲載