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中川海二「環の影」 特殊なバトルスーツと小国の秘密

 天にかかる巨大な環(わ)が地上に落とす影を追い、移動を続ける影従国(けいじゅうこく)。その安寧の日々は、何者かの侵入によって崩れ去る。火種は周辺国に及び、世界を統べる大戦の火蓋(ひぶた)は切られた……。本作は昔日のアジアを彷彿(ほうふつ)させるバトルファンタジーだ。

 この神秘の小国の造形がそそる。台湾の九份にあるような複雑な建造物群を、曳(ひ)き山の要領で前進させるのだ。このような暮らしを永らく続けていられるのは、最強のバトルスーツ・白鎧(はくかい)を保有し、軍事力とその生成技術によって独立性を保ってきたから。それゆえ、他国は喉(のど)から手が出るほど白鎧に魅力を感じているようだ。滑らかな物質を全身に纏(まと)う白鎧は、使用者の肉体にフィットするため、アクションシーンでは無表情ながら生身の肉体が純粋にぶつかりあう迫力がある。つまり、静かで熱い。そこがいい。

 物語が進むにつれ、影従国第94世国王と王妃の関係や周辺の大国の存在が少しずつ浮き彫りになってくる。そこで見えてくるのは、渦巻く策略と智謀(ちぼう)、絡み合う人間関係だ。国家間の均衡を保つために存在していた白鎧の秘密も徐々に明かされていくのだろう。雄大な物語はいま始まったばかりだ。=朝日新聞2020年3月21日掲載