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高山宏さん「トランスレーティッド」インタビュー 「学魔」のエッセンス詰まった翻訳本の解題集 

英文学者の高山宏さん=大内悟史撮影

 英文学者で翻訳家の高山宏・大妻女子大学副学長(72)が、自ら翻訳した60冊超の「解題」だけを並べた集大成となる1冊を出した。題して『トランスレーティッド』(青土社)。900ページを超える大部には、日本の表象文化論に新境地を切り開いた、自称「学魔」のエッセンスが詰まっている。

 英文学者の枠にとどまらず、広く文化史の動向を見渡し、新しい人文学的視点を打ち出してきた。これまで顧みられなかった芸術潮流や視覚芸術の領域に注目し、特に16世紀の画家アルチンボルドら、ルネサンスとバロックをつなぐ芸術様式である「マニエリスム」を紹介した功績は大きい。

 訳業は1980年代からの約20年間に集中する。流儀を聞くと「学訳一如」との返答。「自分の研究と同等の欧米人がいれば、その著書を訳すほうが早い。自分で本を書く必要がないから。解題で補い、よりよくすればいい」。自分のため、学問のためだという。

 17~18世紀の英文学を起点に文学史と美術史の間を行き来し、中世から近現代までを一望した。バーバラ・スタフォード『アートフル・サイエンス』やタイモン・スクリーチ『大江戸視覚革命』も出版当時、新視点が話題になった。

 本の序文に「無茶苦茶(むちゃくちゃ)頑張ってきたつもりなのに、整理されてみると『ふうん、こんなものか』という気分」だと記すのは一流のユーモアだろう。2000年代以降、長く在籍した東京都立大の再編統合に始まる大学「改革」で「自己評価」を強いられ続けた、との愚痴も忘れない。山口昌男や種村季弘が活躍した人文学全盛の時代を振り返り、「文学部の文学研究などが大事にされない」と最近の風潮を嘆く。

 一方で、あとがきによれば、今後翻訳したい本は「やりたいランクAが六十五冊、Bが三十五冊」。計100冊と遠くを見る。いわく翻訳道は「翻厄こんにゃく」であり「本厄困訳」。「高山文学」の道のりはまだまだ続きそうだ。(大内悟史)=朝日新聞2020年3月25日掲載