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はあちゅうさんインタビュー お守り言葉が教えてくれる「上へ上へ」の成長の先ではない私の幸せって?

文:岩本恵美、写真:有村蓮

どれもその時の自分にとって必要な言葉だった

――この本には、はあちゅうさんのいろんな言葉が詰まっています。直近のコラムやSNSの言葉をまとめたそうですが、こうした本を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

 去年までいろんな連載をしていたんですけど、出産などもあって、いったん連載がなくなったんです。そんな時、SNSもある意味、連載のようなものだなと思ったのがきっかけです。

 特にツイッターの投稿って、熟考した言葉というよりは反射的な言葉にはなるんですけど、その時、その瞬間の自分の感情をとらえたもの。しかも、波のようにいろんな言葉がある中で、誰かの心をとらえた言葉なら、ある程度の強さがあるものなんだろうとも思って、好評だったつぶやきを中心に加筆・修正して一冊の本にまとめました。

――まとめなおしてみて、何か新しい発見や気づきはありましたか?

 改めてまとめてみると、わりと似たようなことを言っているなというのはあります。それは多分、自分の本質や軸にあるものが変わらないからで、それをいろんな言葉で表現しているんだなと思いました。

 それと、自分が「こう言いたい」「こうなりたい」という言葉をけっこう書いているなとも改めて気づかされました。私はツイッターを発信ツールとしても使っているんですけど、自分に言い聞かせているようなところもあって、自分が欲しい言葉をつぶやいて自己暗示のように使っているところがあると思うんですね。なので、読む人によっては説教くさいと感じる部分もあるかもしれません。

 自己啓発本って、言っていることはだいたいみんな一緒ですよね。でも、著者によって表現とエピソードが違うのが面白いところ。私自身も、この時はいい表現だと思ったけど、いま読んでみると凡庸な表現だなとか、自分の言葉を思い返してみて思うところはいろいろありました。それでもその時に自分にとって必要な言葉だったというのが日記を読み返しているみたいで面白かったですね。

妊娠・出産で180度違う人生に。「野心が全部なくなっちゃった」

――選ばれた言葉の数々を読んでみて、前作の『じゃない、幸せ。』(秀和システム)に続いて、はあちゅうさん自身が自分の「幸せ」や「生き方」についてものすごく考えている感じがしました。

 考えているというか、答えに迷っているんですよね、きっと。私、自分の幸せが何かわからなくなっちゃって。だから、今は日々、そういうことばかり考えているんですよね。

――それは、やはり結婚や出産で環境が変わったから?

 妊娠・出産が大きいですね。それまでは、競争社会や資本主義のレールにわりと乗って生きてきた人生だったなと思うんです。いい大学を出て、いい会社に入って、男性と対等に競争するみたいなことを一生懸命やってきた気がします。「上へ上へ」という価値観を良しとしてきたし、自分もその中にいたんですけど、妊娠・出産ですべて止まってしまいました。

 その時に、ずっと成長はできないんだっていうのと同時に、「上へ上へ」という成長の先には何があるんだろうと思ったんですね。どれだけ綺麗事を言っても、理想を掲げても、自分のおなかの中で子どもを育てて産むというのは体への負担もあるし、キャリアが一旦ストップすることなんだと、身をもって体感しました。自分が肩を並べてきたと思ってきた男性たちとは、私は全く別の生き物だったんだって思っちゃったんです。あの人たちみたいに常に走り続けることは、今の私にはできない。じゃあ「上へ上へ」の成長の先ではない私の幸せって何だろうと、すごく考えました。今まで良しとしてきたものが良いって思えなくなってきたんです。

 それまでは、妊娠・出産を終えた女性作家さんに「子どもを産み育ててみて、どう変わりましたか?」って聞くようなインタビューを読むだけでも、反発するような気持ちがありました。妊娠・出産で人間が変わるっていうのはある種の偏見なんじゃないか、男性ならこういう質問はあまりされないんじゃないかって。でも、自分が味わってみて、人間が丸ごと変わるくらいの体験だなと思いました。

 まだ自分の中でどうやって生きていこうか、しっかり定まっているわけではないんです。この本もそれを考えている途中に書いたものなので、迷うところはまだありつつも、幸せを掴もうと模索しながら書きました。

――たしかに、これまでのはあちゅうさんって「強い」イメージの方が大きかったんですが、この本の語り口はとてもやさしくて、読者に寄り添うような感じの言葉です。

 基本的に私は強い言葉が好きなんですね。堀江貴文さんやキンコンの西野さんみたいな、強烈でちょっと道は踏み外すかもしれないけど、刺激的な毒みたいな言葉。

 でも、必要な言葉って、その時々によって変わると思うんです。だから、多分、この本は今の自分にしか書けないものだと思います。もしかしたら、読む人によっては「つまらない」と感じる人もいるかもしれません。

 なんか私、いったん野心が全部なくなっちゃった状態なんです。

――著書に『半径5メートルの野望』という本もありますが、半径5メートル以内にもないくらいに⁉︎

 妊娠・出産で体調的にもお仕事的にもほとんど家から出なくなって、物理的に引きこもっていることが多くなったんですよね。それまでとは180度違う人生。家にいて、本を読んだり、SNSで発信したり、家事をしたり、息子の面倒をみたり。でも、意外とそういう生活も好きだなとも思っているんです。
 そういうところに幸せを感じている自分がいる一方で、活躍している友だちを見て外に出ていきたい、これでいいんだろうかって焦る自分もいて、そのせめぎあいに折り合いがつかない中、自分自身を安心させるために書いた本ともいえるかもしれません。

――本の中で「妊活中からSNSとの向き合い方を変えた」とあります。どう変えたんでしょうか?

 大きくはツイッターメインからインスタメインに変えて、ツイッターはフォロー数を一桁まで減らしました。私は自分を持っている方だと思っていたんですけど、タイムラインにいろんな人の活躍や価値観が見えてきてしまうと、彼らの活躍が嫉妬するくらいよく見えてしまうし、自分がやりたいこともわからなくなってしまうんです。だから、いったん自分の殻の中にあえて閉じこもって自分自身の価値観と向き合おうと思いました。

言葉も一期一会

――「お守り言葉」というキーワードがタイトルにもあるように、本全体を通して言葉を大事にされている印象を受けました。SNSで発信したり、人に言葉をかけたりする際に気をつけていることがあれば教えてください。

 その時思いついた言葉をつかまえて、発信することですかね。『食べて、祈って、恋をして』で知られるベストセラー作家のエリザベス・ギルバートさんが、TEDのスピーチや著書『BIG MAGIC「夢中になる」ことからはじめよう』の中で「インスピレーションは一瞬だ」というお話をしているんですね。アイデアというのは頭の中にあるのではなくて、常に空中を飛んでいて、それがたまたま自分のところに来た時につかまえられるかどうかというようなことを言っていて、すごく腑に落ちるところがありました。

 その時言わなかった言葉は生まれないまま埋もれていっちゃって、なかったものと同じになっちゃうんですよね。日記に書くにしてもSNSで発信するにしても、その時に思いついたことって、その瞬間しか出会えない。思いついた言葉を素直に出して、それで嫌われてしまうのはしょうがないのかなと思います。ただ、嫌う人がいる一方で、その言葉で人に好かれたりすることもある。好きか嫌いかは、相手が決めることだからあまり考え過ぎてもいけないとも思います。

――最後に、今回の本をどんな人に届けたいですか?

 心が疲れて本を読むのも億劫な人に、ぜひ読んでほしいです。本が大好きな私でも、一時的にとはいえ、本が読めない時って人生で何回もあるんですよ。無駄にとげとげしい気持ちになってしまったり、嫉妬してしまったり、そんな時にこの本をパッと開いてみてほしいです。この本は最初から最後まで通して読むような本ではなくて、辞典や日めくりカレンダーみたいに、好きなところだけ読んでくれればいい。疲れたときに、その時々に必要な言葉を見つけるためのツールとして使ってほしいですね。

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