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大前粟生さん「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」インタビュー 男の子も傷つく女性差別

大前粟生さん

 性差別やジェンダーバイアスに戸惑う若者たちの物語4作を収める中短編集。「女性差別に全身全霊で傷つく男の子を書いてください」。編集者からそう依頼されて生まれた本作は、ジェンダー小説の新世代の書き手の登場を予感させる。

 表題作は、心の内をぬいぐるみに打ち明ける「ぬいぐるみサークル」を通じてつながる大学生の人間模様を描く中編。主人公の七森(ななもり)は、「女性らしさ」「男らしさ」に過剰に価値を置く世の中に戸惑いがある。痴漢被害の話を見聞きすれば自分のことのように傷つくし、女性を見下す男同士のコミュニケーションにへらへら同調するしかない自分にも嫌悪感を抱く――。大前さんがまさにそんな男の子なのだ。東京医大の不正入試のニュースに触れて憤りで涙を流すほど繊細な。

 自身の感性を率直に映した本作はとにかく人物造形がリアル。女性差別的な社会の価値観を内面化し、「モテ路線」に走る白城(しらき)の存在はとりわけ印象深い。「社会とある種の共犯関係をつくってしまっている人。抵抗しないほうが一見簡単には思えるけど、それはそれで苦しいということも書きたかった」

 就職活動中の息抜きとして、ネットの掲示板にSF作品を投稿したのが小説を書くきっかけ。2016年、早稲田文学の公募プロジェクト最優秀作に選ばれデビューした。

 劇場に通うほどのお笑い好きでもある。その趣味は、主人公の姉が、芸人をやっている弟の漫才のミソジニー(女性嫌悪)に戸惑う短編「バスタオルの映像」にも結実している。体形や容姿を「いじる」お笑いは時代遅れになっていくと感じる。「おもしろさのためにとる雑なコミュニケーションや、人をあおるレトリック。それに対抗できるのが小説や詩ではないかと思います」(文・写真 板垣麻衣子)=朝日新聞2020年4月4日掲載